葉桜の季節にプーチンの「ハイブリッド戦争」とRTの活躍

1. 前回は、職場でガムを噛むことの是非について触れました。フェイスブックで2人の方から「それは止めさせるべき」との意見を頂き、有り難うございました。
すぐ緊張してしまうタイプなので緊張を和らげるため・・・とか何か理由があるのか、また大学のゼミなので先生から注意されたことはないのか、等を訊いてみたらどうかとアドバイスしたのですが、やはり否定的なご意見が多数のようです。

2.本日の日曜日、東京は朝から細かい雨。桜も大分葉が出てきました。今年の桜は散るのが例年より早いような気がするのですが、家人に訊くと変わらないという返事で、気がするだけで、こちらがますます年をとったせいかもしれません。
朝早く、お彼岸は避けたので墓参に行き、あとは静かな一日で、今週末の読書会のテキスト『プーチンは世界をめざす、激変する国際政治』(下斗米伸夫、NHK新書)を読んだところです。


なかなか面白く読みましたが、著書はロシア政治論が専門、プーチン大統領にも何度か会ったことがあるという「知露派」です。
ウクライナが「脱露入欧」をめざしているとすれば、ロシアは「脱欧入亜」である、何れ、極東・シベリアに人口や国家の重点を移さざるを得ない。プーチンの土台は保守主義とユーラシア主義である。西欧諸国との将来的な協調路線もありうる。日本を重視しており、北方領土の進展もありうる・・・といった論調です。

この中で、
“「新冷戦」という言葉を積極的に流布するのは、とくに欧米のメディアのそれである”
“「新冷戦」も「独裁主義対民主主義」もほとんど的外れだ”
という著者の言葉もあります。
そこで今回、的外れかどうかは読む人の判断に委ねるとして、主要な英米のメディアの一部がプーチンをどうとらえているかについて、特に彼の情報戦略について簡単に紹介したいと思います。

プーチンについては1月10日のブログで、タイム誌恒例の「今年の人」の3位に選ばれた「帝国主義者プーチン、その帝国への野望」と題する記事を報告しました。
http://d.hatena.ne.jp/ksen/20150110
昨年11月にはアメリカの経済誌「フォーブス」が2年連続「最も強力な人物」の1位に選びました(2位はオバマ、3位が習近平)。
以下、私のコメントはなく、ハイブリッド戦争に絞った英米の記事の紹介だけです。


3. (プーチンのハイブリッド戦争について)――英国エコノミスト誌2015年2月14~20日号の「プーチン特集」から。
(1)プーチンが好んで仕掛けるのは「ハイブリッド戦争(”hybrid warfare”)」であり、ハードとソフトパワーの複合戦略である。
前者については、ロシアの軍事費増強には目を見張るものがある。米中に次いで世界第3位の軍事費は、2007年から3倍に増え、今年の伸びは前年比3割、国家予算の3分の1強を占める。
(2) 他方でソフトパワーで注目されるのは世論操作であり、(a)マス・メディア(b)インターネット&ソーシャルメディア(c)欧州の極右・極左政党支援の3つに大別される。
 (a)については、ロシアの殆どのマスコミは国家管理されており、中でもRT(2005年設立、Russia Today を改称した)は海外専門のTVチャネルであり、すでに米英など主要国に支局をおき英語・スペイン語アラビア語で24時間ニュースを放送し独仏を計画中。全世界100カ国で7億人が視聴し、270万のホテルで視聴できると豪語している。
(b)は西欧におけるロシア支持のコメンテーターやツイッター利用者を活用し、例えば、「エボラの流行の背後にはアメリカの陰謀がある」といった根も葉もない噂をまきちらすことさえある。
(c)は欧州の極右・極左の少数政党との連携、影響拡大が懸念される。例えば英国のEUからの離脱を党是とする「英国独立党」の党首は、最も尊敬する政治家にプーチンの名前をあげている。確証は得られないが、こういう少数政党の一部はクレムリンの資金援助を得ている可能性もある。
  

4.もう1つは「プーチンのTV放送による軍隊“ON-AIR ARMY”」と題する2015年3月16日付タイム誌(モスクワ支局)の記事です。


(1) 本記事は「グローバルなニュースネットワークRTは、激しさを増す西欧との情報戦争におけるクレムリンの主要な武器である」との見出しで始まる。

(2) 2月28日深夜プーチン批判の急先鋒だったボリス・ネムツォフ(エリチェン政権時の副首相)が暗殺された直後に、ロシアでもっとも高性能の宣伝機関であるRTは、事件の真の狙いはネムツォフを葬ることではなく、プーチン政権に打撃を与えるためのロシアの敵による挑発行為であろうとのコメントを報道した。これが典型的なRTの姿勢である。
RTの編集局長は、自分たちの報道が独立でも中立でもないことを認めるが、同時に「西欧のメディアだって客観的な事実だけを報道している訳ではないだろう」と反論する。

(3)RTは、おそらくプ―チンのもっとも強力な武器の1つである。国内外で、繰り返し、ロシアは西欧の攻撃・陰謀の犠牲者であるというイメージを放映している。そして今や、世界中にネットワークを拡げ、視聴者を増やしている。視聴者は世界で7億人を超え、アメリカだけでも86百万、7大都市でもっとも人気の高い海外ニュース番組であり、 Youtubeの加入者は14億人を超え、VICE NEWS,ABC,CNN,AL-JAZEERAなどを抜いて世界最大のネットワークである。番組がかなり強烈な場面(災害や戦争など)を放映することも人気の1つになっている。
RTにならって中国やイランも同じような24時間放映のニュース番組を配信し始めたが、まだとてもRTには追い付いていない。

(4)時には、RTのこのような偏った内容がRTのジャーナリスト自身にとってさえあまりに重大だと思える場合がある。ウクライナやクリミヤの報道では、ロシア軍の兵士が入国していないという虚偽の報道を繰り返したリポーターが、耐えられずに退職するという事態まで起きた。

(5) こういう情報戦争にどう対処するか?はまことに難しい問題である。
しかし、我々が決してやってはいけないのは、彼らと同じ土俵に立って宣伝戦を戦うことである。あくまでも、事実を報道し、曲げないことがもっとも大事であり、ネムツォフが暗殺される8カ月前にウクライナトークショーで語ったことを思い起こすべきである。
即ち、トークショーで彼は、「我々も対抗して宣伝戦をやるべきではないか」という提言があったのに反対してこう発言した「そんなことをしたら我々も、ジャーナリストをクレムリンに呼びつけ、報道の内容を命令するプーチンのやり方と変わらなくなってしまい、独裁に手を貸すことになる。今のところはまだ西欧のジャーナリストは、視聴者に判断して貰うというジャーナリズム本来の伝統を守っているように見える・・・・」と。
                           
最後に、話題になっているRTのYOUTUBEのサイトは以下の通りです。
https://www.youtube.com/user/RussiaToday