EU離脱を選択した英国国民投票を終えて

「英国と欧州にとって運命の日(Moment of destiny for Britain & Europe)」

23日(木)の国民投票の結果は、事前の世論調査で「僅差あるいは離脱派の若干優勢」が伝えられていたとはいえ、実際に起きてみると、衝撃で世界を包みました。

私も普段から、エコミスト誌やガーディアン紙を愛読し、その主張に共感し、最後には英国人の理性的な判断と良識が働くだろうと楽観していましたが・・・。


本件は日本でも詳しく報道され、「EU統合の危機、ドミノが起きるか?」「英国の国論は二分し分断され、連合王国崩壊のおそれも」「市場は引き続き大荒れか、シティの将来は?」・・・
といった悲観的な見出しが並びます。
キャメロン首相の判断や戦術への批判も多くみられます。
それらはみなその通り、尤もな指摘であり懸念ですが、私は以下、少し違った視点に立ちたいと思います。


1. 結果を受けて、キャメロン首相が辞意を表明。7分間のスピーチは立派だったと思います。所詮建前で、実情はもっと深刻だろうと思いますが、それでもどこかの知事さんがやめた時とはまるで違って、言うべきことをきちんと・潔く語ったと思います。


要約すると
(1) 議会制民主主義を基本とするこの国にあって、今回の国民投票で民意を問うことは民主主義の精神に沿った歴史的な出来事であった。

(2) 結果は自分の考えとは異なる民意になったし、私の信念はいまも変わらない。しかし、国民の選択は尊重されねばならない。
参加した全ての国民に感謝するとともに、離脱派には祝意を表する。今は皆でこの方向に向けて努力していこう。
在英のEUの人達にすぐに急激な変化が起きるわけではない。冷静に対処してほしい。

(3)新しい目的地に向かうには私は適任ではない。新しい・強いリーダーシップが必要である。
しかし後任が決まるまでは私も全力をあげて取り組む。いまは安定がもっとも重要であり、英国の経済は基本的に好調である。民主主義のモデルを示し、平和な議論を重ね、最良の方法を探していこう。

私の意見は異なるが、こういう結果を国民が選択した以上、英国はEUから離れても力強く存在していけると信じている。私も全力をあげて協力し、この国を愛し続ける。


2. 今回英国国民は厳しい・困難な道を選んだ、世論は真っ二つに分かれた、EU諸国にも打撃を与えた。不確実性と混乱と分裂は長く続くのではないか?暗闇に向かうのではないか?


しかし、と思います。
だからこそ、二分した国論をどうやってまとめていくか、「自由は多事争論にある」として、その先をどうまとめるか・融和を図るか、英国のこれからの民主主義が問われているのではないか。


それを「分裂はさらに深まる、民主主義の危機だ」と悲観的に分析するよりも、多少の懸念と大いなる期待を持って見守りたいと思います。英国国民が、さらにはEU諸国がこれから必死に努力していくこと、民主主義の更なる新しい実験を暖かく見守るべきではないか、と思います


3 国民投票について補足します。
これについても「なぜ、国民投票に踏み切ったのか?」「無知なポピュリズムの勝利ではないか?」「国民投票の危険性浮き彫りに」などといった批判が内外に多くみられます。


しかし、と思います。議会制民主主義を基本とする国において、とくに最も歴史の古い・優れた議会制民主主義の国、英国においても、国の政策に対する全国レベルの直接民主主義の発動は、決して多くありません。


英国では過去2回。1回は、1975年、EUの前身であるEUU(ヨーロッパ共同体)加盟の是非を問うたとき(民意は加盟を肯定)。
2回目は2011年、選挙制度改革を問うもので、この時は改革案(小選挙区制に比例代表的な要素を織り込む)への否定が民意となった。

今回が3回目ですが、キャメロン首相は「判断は皆さん自身の手にあります(The choice is in your hands)」と語りかけ、国民投票にこの国の運命を委ねました。


もちろん、キャンペーンの間、政治家同士の激しい中小や誹謗がとびかったことも事実でしょう。ハリー・ポッターの作者がインターネット上で、「対立をあおる苦々しいキャンペーン」と批判し、双方の政治家の主張は「これまで聞いた中で最も醜い物語」と指摘したことは、日本でも報じられました。


しかし他方で、健全な民主主義も見られたのではないか。
双方の立場の若者がもちろんボランティアで、国会議事堂でディベイトを行い、街頭で通行人と話し合い、戸別訪問を繰り返す姿も報道されました。
このディベイトに参加した学生代表の1人(残留支持の女子学生)が郷里に帰って、両親と真剣に話し合う様子もテレビで見ました。
「離脱派は英国人のアイデンティティが大事と主張しているが、EUの援助でイタリアの大学に留学した私には、英国人であり欧州人でもあるという2つのアイデンティティがあっていいのではないかと考える」と主張して、父親と話し合っていました。


4. 今こそ英国人よ、頑張って「民主主義」の手本を見せて欲しいと思います。
もちろん、このような想念の先に、ひょっとして初めての国民投票に参加せざるを得ないかもしれない、これからの日本のことを心配している自分がいます。もしそうなったら私たちは、民主主義を貫徹するために、どういう行動をとるべきだろうか?


その意味からも、今回の英国人の行動と判断を私達のこれからの反省や教訓としつつ、
同時に、真価を問われるジョンブル魂、逆境にあっての不屈の精神、英国人らしい冒険心と楽天主義に期待したいと思います。