英国のEU離脱――「ブレグジットの地」対「ロンドン人の国」

1. しつこくこの問題を取り上げています。
まずは昔、「シティ」で働いたこともあり、個人的な関心があります。
「シティ」はニューヨークと並ぶ世界の金融センターですが、それぞれの国に拠点がなくてもロンドンから欧州27の国と金融ビジネスができる、いわゆる「パスポート特権」が離脱後なくなる可能性が高いのでは、という懸念です。
現在、ロンドンには250の外国金融機関があり、73万人の外国人が働き、例えば、ゴールドマン・ザックスは現在6500人の欧州スタッフのうち6000人がロンドンにいてフランクフルトには200人しかいないそうです。このあたりが将来どうなるか。

しかしそれだけではなく「1989年のベルリンの壁崩壊に匹敵する歴史的な出来事」と評する人もいる、この事態を英国と欧州がどう対処するか?
それは、日本社会を考えることにもつながるのではないかと思うからです。


2. 7月2~8日号の「エコノミスト誌」は「英国は無政府状態」と題して、約3分の1を本問題に割いています。
主な内容は、(1) 論説2本(うち1本は「自由主義再構築へ結束を」と題して日経が訳しています。原文の表題は「The politics of anger」)
(2)EUの今後
(3)英国の今後―政治
(4)同じく経済
(5)同じく社会
(6)同じく金融(シティ)・・・等々です。

このブログではなるべく大手メディアの取り上げない視点を大事にしたいと思います。
その1つに「分断された英国」があります。もちろん、この点も報道されてはいますがそこを少し補足します。.


エコノミスト」誌の記事は国民投票によって明らかになった社会の分断を
ブレグジットの地対ロンドン人の国(Brexitland versus Londonia)」と題して、「英国は2つの国になってしまった」と嘆き、「英国らしさ( Britishness)が依然として国民をまとめるアイデンティティになりうるか?」を問い、「基本的な対立軸はかっては労働対資本だったが、いまや「オープン(開かれた社会)」対「クローズド(閉じた社会)」になった」と評します。


3.「分断」を嘆くほど今回の投票は、地域・世代・学歴・階層によって際立って投票が分れました。イングランドの地方、高齢者、低い階層、低学齢者の多数が離脱派(以下「L」)、その逆は残留派〈以下「R」〉が多数でした。
投票当日の世論調査が新聞に出ていましたが、4700人強のサンプリングとはいえ、結果もほほこの通りでした。
少し見難い表ですが、写真を載せました。調査は、「年齢」「社会階層」「学歴」の3つのそれぞれの投票行動を調査しています。


(1) 例えば今回、24歳までの75%がR ,65歳以上の61%がL。
「社会階層(Social Grade)」の「ABC1」の60%がR, 逆に「C2DE」の60%がL。
学歴では、大卒の71%がR,それ以下の学歴の55%がL。
因みに「社会階層」の「ABCDE」について詳細な説明は省略しますが、Aは「アッパー・ミドル」Bは「ミドル」Cは「ローワー・ミドル」Dは「労働者階級」ですが、職業(高度な知識スキルを要するか?管理職か?)による区別でもあります。「E」は私のような年金生活者や無職の人たちです。


(2) こういう違いを明示することはあまり日本のメディアはやらないように思いますが、どうでしょうか?
日本の選挙結果ももう少し、「クラスター(集団)分析」を詳しく公表してくれると貴重な情報開示になると思うのですが、今だに「単一民族」と「1億総中流社会」という前提にしがみついているからでしょうか?
アメリカであれば、これに「人種」が大事な「クラスター」になります。


(3) 「クラスター分析」があれば、それらを組み合わせることで、より有効な情報を知ることができます。
例えば、沖縄の、高学歴の若い知識労働者はどういう投票行動をする人が多いだろうか?などの分析です。


3. もちろん今回の「分断」を、「エリート」対「非エリート」の構図だけに単純化するのは危険でしょう。
Lを支持する人は、「ABC1」の社会階層で4割、大卒でも3割はいました。

また、この点に関して、「今回の投票は、単なる非エリートのエリートに対する反乱ではなく、“一部のエリートに指導された”非エリートの叛乱だった」と分析する2つの記事を最後に紹介します。

(1) 1つは、7月7日フィナンシャルタイムズの記事「Brexitパブリック・スクール卒の争い」、もう1つは同日のNY Timesの記事「英国の政治はいまだにエリート校卒業生が牛耳る」でほぼ同じ内容なのに興味をもちました。


(2) 要は(保守党の)R派のキャメロンもL派のジョンソンも、イートン校からオックスフォードで学んだ同窓であり、後任を争う、メイ(R),ゴヴ(L),オズボーン(R)、など何れもオックスフォード大卒。しかも彼らは、在学中,閉鎖的・貴族的な「クラブ」や模擬議会の「弁論部」に属し、「会長」も務めた。そこではディベイトの能力、レトリック、ユーモアがもっとも重要とされた。グラッドストンチャーチルの雄弁が尊敬され、学ばれた。

(3) 政治家になってもお互いに親しい友人だったし、家族ぐるみの付き合いであり、議会は彼らにとって「大学時代のディベイトの延長の場」であり、今回もまたお互いに立場を異にしてディベイトに挑み、レトリックを駆使して戦った。その結果、大衆の怒りや不満をうまく引き出したL派の勝利となったといえるのではないか。

(4) 今回のEU離脱移民問題は、体制とその政策に反発する大衆の不満や怒りのはけ口やガス抜きに利用された面があり、それを牛耳ったのはどちらもエリート集団ではないかと皮肉っています。

英国はこのように「社会階層」を真正面から取り上げて、人々の意識や行動を分析するのに対して、
日本でははなぜ、こういうとらえ方をあまりやらないのか?「分断」されていないと皆が思っているのか?
現状に満足して、英国のようには「体制」に怒りや不満を持っていないのか?
それをうまく引き出すレトリックの巧みなエリートはいないのか?
などと考えています。


今日は参議院選挙の投票日。若い人たちが、地域別・階層別・職業別などでどういう投票行動をするか?を知りたいものです。Brexitのように、未来を担う若い人の75%もの意見が報われないというのはやはり問題と言わざるを得ないのではないでしょうか?