タイム誌が語る「アメリカには240も祝う理由がある」

1. 今回は、暫らく取り上げていないアメリカの話です。
7月4日はこの国の独立記念日ですが、今年は建国240年。
そこで7月11〜18日号の「タイム誌」は特集記事を組みました。

いま、アメリカはいろいろと問題を抱えている。大統領選挙の年だというのに双方の候補に魅力が欠け、しらけている有権者も少なくない。


だからこそ、240年目を迎えて、アメリカには「少なくとも240は、祝うに値する理由がある。明るい面(bright side)に目を向けようではないか」という編集方針で、
(a) 大きな話から
(b) 地方の小さな話や
(c) 有名人の語る「私の好きなアメリカ」など
様々な角度で取り上げます。
日本だったら、(240でなくてもよいけど)どんな「明るい・素敵な物語」が語られるかなと考えながら、結構面白く読みました。


2. 例えば、(c)のカテゴリーであれば、
(1)ブーン・ピケンズ(投資家、大富豪)がどこにでもある「デイリー・クイーン」のソフトクリームが大好きだと語る(NO.194)のはご愛敬として、
(2)ジャック・ニクラウス(ゴルフのプロ兼慈善事業家)は、生まれ故郷のオハイオをあげ、「小さな町と親切な人びとの魅力」を語ります。(No.219)
(3)アメリカを代表する児童文学(例えばNo.178「ハックルベリー・フィンの冒険」)をあげる有名人も何人もいます。

(b)と(c)が重なる「物語」も多いのは、上述のニクラウスもそうですが、この国が「田
舎・地方」を大事にする文化があるからでしょう。


(4)例えば、あるジャーナリストは、ニュー・ハンプシャーの小さな村の集会所(タウンホール)を紹介します(No.188)。

そこでは建国以来の「何でも皆で話し合って決める」という、トクヴィルが『アメリカのデモクラシー』で感嘆している直接民主主義の伝統が残っている。
――年に1度、村民が集まって話し合う。今年の議題は「街灯にLEDを採用するか否か?」で、626 対66で採用が決まった、と。


3. カテゴリーの(a)と(b)は、編集部が選びます。
例えば(b)「地方の小さな話」であれば、以下、ほんの数例を紹介します。

(5)“「本屋は死んだ」と言われるが、誇張されている“という表題で(No.64)、地方の素敵な(本好きの私なら絶対入りたくなる)小さな書店が紹介される

――ある田舎の「小さな本屋」の主人は「ベストセラーは扱わない。しかし、中にはエミリー・ディキンソンの詩を読みたい人もいるでしょう。そういう人はうちにいらっしゃい」と語る。そしてこういう本屋の数や売り上げは増えている。

――
(6) “トマス・ジェファーソン(第3代大統領)だったら愛しただろう地方自治がある“(No,.86)
――ノースダコタ州にある地方議会では、議員は全員がほかに仕事を持ち、議会の活動は基本的にパートタイムかつボランティアであり、地元の選挙民とは隣人同士のような付き合いである。


(7) “地元の大学の授業料を支援する町がある”(No.145)
――ミシガン州のカラマズーという町では、2005年から匿名の有志による寄付で、意欲と能力はあるが経済的理由から進学できない高校生が、地元の大学に進学する授業料を無料にした。
当時、「ジョークだろう」という市民も「涙を流して喜んだ」親もいた。いまも続いている。

などなどです。


4. 最後に、カテゴリー(a)「大きな物語」の幾つかを紹介します。

(8) まずNo.1にあげるのは「この国の多様な人びととその個人主義」です。それがいかに魅力と活力を生んでいるかが語られます。

(9) 次に「自然」が選ばれます。(No.4)

――国立公園というコンセプトはアメリカ発である。いま400あり、ボランティアを含めた活動がその環境保全を支えている。

(10) 移民国家における「移民の存在」もあげられます。(No.9)
―――「移民のいない国家は想像力を欠いた社会です」というある作家の言葉が紹介されます。


このように「大きな物語」が最初の方に紹介されて、次に「地方の小さな物語」の紹介に移り、最後にまた「大きな物語」に戻ります。
例えば, (11) No.233では、「寄付文化(チャリティ)」がいかにアメリカ社会に根付いているか、国民のDNAになっているか、それを通して1人1人が自分なりに社会の不平等や格差に立ち向かうことがいかに大切か、具体的な事例で語られます。


そして, (12)最後のNo.240は、一時期、絶滅の危機に瀕した、ネイティブ・アメリカンにとって「聖なる動物」であるバッファローアメリカン・バイソン)が官民一致の努力で見事に甦った物語。これには,日本でもよく知られるアメリカ民謡「峠の我が家(Home on the Range)の1節が表題にあります ――“Oh, give me a home where the buffalo roam・・・・・”

5.というような「特集記事」ですが、そこに流れるのは、
(1)「衰退や差別や格差が言われるいまのアメリカに、何とか明るい話題を提供したい。アメリカの良さを再認識したい」という思いから始まり、
(2) アメリカにいまも「良さ」があるとすれば、それは「人びと」であり、「地方・田舎の小さな暮らしであり、物語」であり、
(3) そういう「良き人びとや物語」を生んでいるのは「自由と多様性」にある、
という信念ではないでしょうか。
〈現実はもっと厳しく、こんなに甘くはないよ、という批判もあるでしょうが〉


日本だって、探せば、沖縄にも、秋田にも北海道にも、「ささやかだが、素敵な物語(ロマン)――人々とその暮らしと生き方」がたくさんある筈だし、そういう『特集』があってもいいのではないか、
と考えました。
最近、「残念なことに、今の世界を見ていると、悪いことはすぐに世界中に広まるけれど、良いことは一向に広まらない。」という行天国際通貨研理事長のコメントを読んでなるほどと思いました。「良いことを広める努力」がいま大事ではないでしょうか。