タイム誌「2018年今年の人」続編です


1. 前回は「みんなが愛唱するような第二の国歌があるだろうか?」と書いたところ我
善坊さんから、日本人の心情にぴったりではないかと「里の秋」、岡村さんからは「懐かしい思い出の歌」として“We shall overcome”“ Hobo's Lullaby(流れ者の子守歌)”をあげて頂きました。有難うございます。


「里の秋」に全く異存ありませんが、欲を言えば「素敵な物語」があるといいですね。
他方で、”We shall overcome“にはもちろんあります。
もう56年も昔、人種差別撤廃を訴えるワシントン広場に集まった25万の大群衆を前にキング牧師が「私には夢がある」の名演説をしたとき、ジョーン・バエズがこの歌を歌いました。You tube のサイトもあります。
https://search.yahoo.co.jp/video/search;_ylt=A7dPhg_NzT5cExUAO9KJBtF7?p=joan+baez+we+shall+overcome+washinngton&fr=top_ga1_sa&ei=UTF-8

岡村さんにも以下のように「物語」があります。――「日本でもベトナム戦争に反対し、学生運動が盛んな頃、We shall overcome この歌を会場いっぱいの人達と歌って、歌い手と観客が一体となったと感じ、勝ち取る日が来るんだと信じて僕も歌ってた日があったんだなあと。懐かしい思い出です」。
日本でもこの歌を若者が一緒に歌った時代があったんですね。
いま、アメリカの若者も知らない人が多いかもしれません。


それぐらいアメリカは変わってしまったのではないか、という気がします。
” Hobo's Lullaby”は知らなかったのでYou tubeで検索しました。
https://search.yahoo.co.jp/video/search;_ylt=A2RA2D6J1j5cjkcA4BuJBtF7?p=hobo%27s+lullaby&fr=top_ga1_sa&ei=UTF-8
これも、古いアメリカの匂いのする曲です。


2.さてお礼を終えて、今回はタイム誌「2018年今年の人」続編です。
タイムはアメリカの雑誌ですから「今年の人」の候補もアメリカ人が多い。
次点の第2位はトランプ大統領、3位はロバート・ムラー特別検察官です。
たしかにこの2人の対決が今年前半のアメリカ政治の大きな話題になるでしょう。

トランプについて言えば、

(1) 大統領に就任した2016年に「今年の人」に選ばれたのは、歴代大統領と同じです。
(2) ところが翌年の17年、翌々年の18年と2年続いて次点になった大統領は彼だけ
です。いかに話題性があるかということでしょう。
(3) タイム誌は、必ず「呼び名」を付けて「今年の人」を紹介します。
2016年のメルケル首相であれば「自由世界の首相」、17年のセクハラ摘発の女性たちであれば「沈黙を破った人たち」、昨年のジャーナリストであれば「(民主主義を)守る人たち」と言った具合です。

トランプにももちろん「呼び名」を付けましたが、3回とも否定的な言葉です。
2016年「今年の人」のトランプは「アメリカ分断国家(The Divided States of America)の大統領」,17年の次点では「扇動者(The Agitator)」,
そして今年の次点は「破壊者(The Disrupter)」と名付けられました。

(4) トランプは「国際関係をゆさぶり、独裁者を元気づけ、アメリカの政治をひっくり返し、公の論争(the public debate)を危うくさせた・・・」。そしてその点で彼の思惑通りの実績もあげている。
(5) しかしタイム誌は、「それが逆にアメリカの民主主義の顕著な健全さ・しぶとさを示す好機にもなっている」ととらえます。

「トランプが破壊しようとすればするほど、政治や司法のシステムや軍は抵抗を強めている、市民の反対も広がっている」と指摘します。
希望的観測といえばそれまでですが、トランプがむしろ健全な民主主義の大切さを人々の心に植え付けた、それを草の根で支えるのは、女性・若者そして有色人種の人たち(people of color)だ、彼らに期待しよう・・・・とタイム誌は強調します。

アメリカ人というのは基本的に楽観的な人種だなと感じさせられる文章です。

因みに昨年11月の中間選挙で下院は民主党235(+40)共和党195(−40)でした。
投票総数は、民主党61百万票弱、共和党約51百万票で、1千万票近い、8.6% の大差がつきました。
一概に比較はできませんが、前回の大統領選挙でトランプがヒラリー・クリントンに勝ったときに投票総数は、ヒラリーの方が多かったが、その差は3百万票、2.1%でした。民主党に勢いがあることは間違いないと思いますが、来年の選挙で強力な大統領候補がいるかどうかですね。


2. トランプ大統領は「破壊者」としての実績をあげて成功している面もある、しかし
包囲網も広がっている。
――としてタイム誌はムラー特別検察官を「今年の人」の次々点に選びました。
記事は彼の人となりがもっとも注目されると書きます。


(1) ムラー特別検察官の最終報告が2月にも公開される見通しである。ロシア疑惑や大統領選挙資金の不正使用(ポルノ女性との関係の口止め料に使われた)などでトランプの側近(もと大統領顧問や顧問弁護士や選挙運動の責任者など)が次々逮捕されているが、調査結果が注目されている。
もちろんトランプは「私は一切知らないよ」と一貫して否定している。
2人の、司法と政府権力の基本原理をめぐる戦いである。


(2) これまでのところムラーは、沈黙を守っている。インタビューも記者会見もツイッターもなく、捜査状況についての情報は事前にいっさい漏れていないい。

(3) ムラーはそういう人物である。
1944年生まれ。プリンストン大を出て海兵隊に入り、1年ヴェトナム戦争にも参加。帰国してヴァージニア大学院で法律を学び、司法の道を選んだ。共和党員で、ブッシュ(息子)政権時にFBIの長官になり、オバマ政権時も再任され12年務めた。

(4) 厳格で、気難しい。短気だが完璧主義者。好かれてはいないが尊敬されている。
黒白をはっきりさせるタイプで、トランプと性格は正反対に異なる。
ある部下は「もし自分の母親を起訴すべきと信じたら、彼ならそうするだろう」と語る。

(5) 調査報告で、トランプの共謀罪を立証できるかどうか?が最大の問題である。
もしイエスなら下院での大統領弾劾の動きが加速するだろう。
しかし、もし仮にムラーがトランプ有罪を立証した場合には、彼はより大きな挑戦に直面することになる。
在職中の大統領を起訴できるかどうかは、憲法には規定がない、起訴された前例もない。いまだかって明確な判断も示されていない。
司法省を含めて政府は従来から否定的な意見である。

この極めて難しい憲法上の問題にムラー検察官は沈黙を守っており、彼がどう考えているかは現時点では分からない。
最終報告が発表され、仮に有罪が立証されたときに、彼は自らの責任を果たすためにどういう行動をとるか?
そのとき、彼の性格が最終的に試されることになるだろう。

もちろんトランプも徹底的に妨害するでしょう。
この2人のこれからの対決は、野次馬的には面白いドラマになりそうですが、英国エコノミスト誌1月5日号は「トランプ劇場第2幕」と題する論説を載せて、「混乱」が待っていると懸念します。野次馬根性ではいられないかもしれません。