『総理の夫First Gentleman』(原田マハ)という小説。

  1. 人気作家原田マハさんは実に多作です。題材は専門の美術関連に限りません。しかもご自身は、そういう精力的な印象を感じさせない、普通の女性です。

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2. 今回は60作以上の著作の中から、『総理の夫 First Gentleman』(実業之日本社文庫)、日本初の女性首相が奮闘する話をご紹介します。

 映画化もされて、9月23日全国公開です。2013年に書かれた原作が8年後のいま映画になって、制作した映画会社もタイミングの良さに喜んでいるでしょう。

 

  但し、当たり前の話ですが、小説の世界と現実の政治とは大違いだろうと思います。

読み終えて、「ああ面白かった、しかし現実にはあり得ない」と割り切るか、どうしたらこういうことが本当に可能になるかを考えてみるか・・・・。

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  1. 本書について取りあげたいのは以下の3点です。

(1)「感動の政界エンタメ!」と出版社が宣伝するだけあって、物語作りの巧みさ。

――しかしそれだけでは、「ああ面白かった」で終わってしまうので、

(2) 女性の首相は日本にも生まれるだろうか?

(3) 女性首相は、政権交代の結果で誕生するというのが本書の筋書きだが、政権交代は可能だろうか?

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  1. 今回は、主に「エンタメとしての面白さ」を取りあげます。(1)20XX年に、相馬凛子(りんこ)という、初の女性で史上最年少42歳の総理が日本に誕生する。

「第111代の首相」とあり、1年で退場する菅氏が第99代ですから、その12代あと、数十年先の未来を想定している。

 

そして、「総理の夫」が書き残す日記体で物語が進む、という仕掛けが巧みである。

(2 )相馬凛子は、両親はともに故人だが父は夭折した天才小説家で、母は著名な国際政治学者という設定。

 

本人は東大法学部卒、博士課程を終え、その間にハーバードに留学。シンクタンク研究員を経て、32歳で無所属から立候補して衆議院議員になり、わずか5名の少数野党「進歩党」の党首になる。

飛び切りの美人、頭脳明晰、曲がったことが嫌いで、信念と理想に燃えて、自らの言葉を大切にして、ひたすら国民のために闘う強い女性。

ちなみに先に読み終えた妻は、雅子皇后を想像したと言います。

 

(3)他方で、「総理の夫」になる相馬日和(ひより)は38歳。大富豪の次男坊で、東大理学部博士課程を終えた、浮世離れした鳥類学者。

講演会の講師として登壇した凛子に一目ぼれして「運命の女」と出会ったと感じる。

 

この「日和クン」は、人柄が好く、凛子を全力で支えることに傾注する。朝食を用意し、妻の体調管理に気を遣う。ユーモアがあり、人間を鳥と比較して観察し、いつも周りを和ませる。

 

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(4) ともに抜群に頭が良く、かつ正義感あふれる強い女性と大金持ちで優しい男性とのコンビネーション。

 私たち庶民がやっかみや反発を感じさせないほど雲の上の存在の二人が、政治の醜い陰謀に巻き込まれて闘っていきます。

 

  1. 相馬新総理は、改革派の象徴のような存在です。
  2. 以下、本書からの引用です。(1) 「凛子は、(解散に踏み切った)選挙選で、繰り返し叫んだ――。

 絶対に、絶対に、絶対に、私たちは後戻りをしてはなりません。

 かっての与党、保守派が、何十年もこの国を支配してきた結果が、いまの日本なのです。

 この国を、かって与党だった人たちに再び預けるわけにはいかない。

 彼らは自分の利権を守るために走り、この国が間違った道を逆走することには微塵も関心を寄せないのです。

 そうなっては、いけない。絶対にいけないのです。―――

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  (2) そして彼女は選挙で勝利した直後に、国連総会に出席し、スピーチをする。

「各国代表が席を立たず(いままでは日本の首相のスピーチなど国際的にはまったく人気がなく、始まったとたんいっせいに離籍するというのが普通だったらしい)、流暢な英語での凛子のスピーチに耳を傾けてくれた。

 この人物は、本気で、日本を変えようとしている。そして、本気で日本のプレゼンスを高めようとしている。

 いまの凛子は、まちがいなく、誰の目にもそう映っているのだ。」―――

 

7. 非の打ちどころのない完璧な女性が日本を変えていくという話は、 日本のいま(女性候補を含めて)とはあまりに異なり、拍手喝采したくなります。しかし,所詮夢物語ではないかと思う人も多いでしょう。

  著者自身は「私から提案した理想の総理像。いずれこういう総理が現れてくれるという予言の書(笑い)」と語っているそうですが・・・・。