「オセローを読む」の最終講義

  1. 暇な老人は病院行きだけでなく、あちこち出歩きます。先週は朝日カルチャー新宿教室に2回行きました。うち1回はシェイクスピアです。

2. 講師の大場建治先生はもと明治学院大学の教授で、学長も務めました。退職後、朝日カルチャーで、四大悲劇(「ハムレット」「オセロー」「マクベス」「リア王」)を読む講義を始め、今回の「オセローを原文で読む」が最後になりました。

 この日、5幕2場の、オセローが最愛の妻デズデモーナを殺した罪を心から悔いて自死する場面まで、無事読み終わりました。

 92歳の高齢で、ここまでという本人の意思が固く、最後の講義になりました。皆が残念がっていました。ワインを贈呈し、写真を撮りました。

先生は「オセロー」が一番好きだそうで、だからここで終わりたかったのかもしれません。

 

3.受講生は多くなくゼミのような雰囲気で、人気がありました。 

(1) 原文を一字一句読んでいきますが、いつも脱線して博識・うん蓄を披露するため、なかなか先に進まない。その脱線を聞くのが面白い。

(2) 新潟県村上の出身で旧制高校を出て明治学院大学で学び、一生をシェイクスピアの研究に捧げた学者。とにかくシェイクスピアが好きで好きでたまらない、その思いが言葉の端々から伝わってきます。今の騒がしい浮世のことなどどこ吹く風かと、彼の世界に没頭しています。

好きなこと、それも400年以上も昔の英文学に一生を捧げる人生もいいものだなと羨ましく思います。

 

(3) そして、老学生の話をよく聞いてくれる。

私は初めて読むこともあって、臆面もなく素人の質問や意見を口にします。先生が嫌がらずに聞いてくれるのでこちらも調子に乗り、本題になかなか戻りません。

(4)雪深い田舎で少年時代を過ごしたらしい。そういう環境からなぜ英文学を目指すに至ったかの経緯は知りません。

しかし幼い時に寒さに鍛えられたのでしょう、一年中和服姿で鎌倉から来られる、冬でも裸足に下駄ばきである。

新宿駅から住友ビル内の教室に歩いているのを見かけて、後ろ姿を写真に撮ったことがあります。

4.「オセロー」は17世紀初頭に書かれ、上演されました。

(1)主人公オセローはヴェニス共和国に雇われる勇敢かつ高潔な将軍だが、当時ムーア人と呼ばれたアフリカ北部の黒人。ヴェニスの名門の娘デズデモーナは親の反対を押し切って彼と結婚する。

(2)トルコとの戦いの総司令官に任命されて、妻を同行しキプロスに赴任する。その地で、デズデモーナが不義を働いたという部下のイアゴーの偽の情報を信じたオセローは彼女を殺してしまう・・・・という悲劇です。

(3)異人種(黒人と白人)間の結婚が、どのようにこの劇の主題になるか?作者の意図は?当時の観客の反応は?

 私は、現代にもつながる問題として、この芝居の中心に「人種問題」を据えて話題にする。

 ところが先生はこの点にあまり重きを置かない。むしろ愛の悲劇ととらえる。生来のロマンティストなのでしょう。

そこに視点の違いがあって、何度も話し合いました。懐かしいです。

(4)「白人の俳優は全身を黒塗りにして演じる。それがローレンス・オリヴィエのようにいかに名演技であっても、どうも納得できない。この役は黒人が演じた方が感情移入しやすい」と私が言うのを、にこにこしながら聞いてくれました。