先週末、『ニューヨーク美術案内』(千住博・野地秩嘉、光文社新書)を読みました。10月20日に出版されたばかりで、私がNYを訪れた時には間に合いませんでした。新書ですからとても読みやすく、メトロポリタン美術館、MOMA、チェルシーのギャラリー、そしてフリック・コレクションを紹介しながら、絵を見る悦びを教えてくれます。
人物画の前にたったとき、描かれた人物の耳に注目することといった、鑑賞する際の面白いコメントがつまっています。しかし私がお伝えしたい・この本のメッセージは以下の3つです。
1.アートとビジネスの関係。とくにNYではアートとアートビジネスは特別の力をもっている、と千住氏は言います。「ソーホーもチェルシーも、その昔は何もない、さびれた工場街でした。ところがそこへ美術作品が舞い降りたとたん、町は活性化し人が集まってきたのです。アートは町を変えます・・・」(これ、京都についてももっと考えるべきではないでしょうか。因みに、アリスとジョンの夫婦はチェルシーに住んでいます)
2.現代美術のわかり難さについて触れながら、「現代美術を買う人は時代の最先端が欲しいのだ」という分析。「ニューヨークで仕事をする人のキーワードを知ってますか」と千住氏は共著者・野地氏に問います「それは『フォワード・ルッキング、フォワード・シンキング(forward looking,forward thinking)』です。自分は人の背後を付いていく人間ではない、誰よりも先頭を走るのだというイメージをつねに周りに振りまいていなくてはならない。フォワード・ルッキングがあってこそアメリカは成長を続ける」(アントレプレナーは、きっとこういう人たちでしょうね)
3.12年間NYに住まいとアトリエをおく日本画家である千住氏の、教育についてのコメント。少し長いですが、私の意見とかなり重なりますので、ぜひ引用したいと思います。
「日本でエリート教育といえばガラスの温室を作り、そのなかへ同じような環境で育った子供を入れる、といった概念になってしまう。しかし、アメリカを指導する層は多様性を学ばせたい、と考えているようです。スクールバスの乗り降りも、ハンディのある子を皆で助ける、クリスマスにひとりプレゼントをもらえない貧しい家庭の子に心を痛める、心に病のある子を皆であたたかく見守る、そんなことがいつも食卓の話題にのぼります。弱者の立場を想像することを学び、人に対するやさしさを知ることが本当のエリートを育てる教育ではないでしょうか。(略)それぞれの人間が同質でないニューヨークにいることは私にも家族にも、想像することの大切さを教えてくれました」(“想像することの大切さ”いい言葉ですね。すべての根元に想像力がある、と私も考えています。想像できなければ創造もできません)