再び『楽しいスケート遠足』とアリス&ジョン

1. 前回、NYでアリス・テッパー・マーリンから邦訳『楽しいスケート遠足』(福音館書店)という、題名通り楽しい絵本の原書を頂いたことに触れました。

2. アリスはNY在住、長年のNPO活動でその道の人にはよく知られています。現在はSAI(ソーシャル・アカウンタビリティ・インターナショナル)というNPOの代表で、多国籍企業の低開発国での労働条件の改善に取り組んでいます。

私たちの活動であるKSENは2005年秋に彼女を招いて東京と京都でセミナーを開きました。ご主人のジョンは著名なエコノミストですが、一緒に来日してくれ、私がホスト役で約1週間、べったりお付き合いしました。
とても楽しい思い出になりました。


その際のことやアリスの活動や人柄について、昨年出した『小さな企業のソーシャルビジネス』(文理閣)の中で10頁にわたって紹介しました。

今回のNY訪問で6年半ぶりに再会して、もちろん彼女は日本語は読めないけれど、この本を直接渡したいということも旅の目的の1つにあって、SAI訪問を予定に入れました。



3.3月14日、NY在住の北島さんにも同行してもらい、SAIを訪問して、現在の活動状況についていろいろ話を聞きました。
SAIはSA8000というグローバルな労働条件の統一的なガイドラインを作って、企業とのパートナーシップを図っています。
SA8000を導入する企業は世界で3000社になり従業員にして150万人の企業をカバーしているとのこと。
うち、インド600、中国400社あたりが多く、とくにかっては協力的でなかった中国の企業の姿勢が前向きに変わってきたというような話を興味深く聞きました。


3. もっとも、アリスには会えませんでした。
体調を崩して家に居るとのことで、ナンバー2の女性に『小さな企業の〜』を渡して、彼女から活動を聞いた次第です。

その夜、ご主人のジョンからイェールクラブに電話があり、アリスからのお詫びの伝言とともに、家では会えるので来ないか?と夕食のご招待を頂きました。
あいにく、当方も少ない夜は何れもふさがっていてお断りせざるを得ません。
「実は、明日の朝10時ペン・ステーション発の電車でワシントンまで行く予定なんです」
「それなら、ちょうど昼前にハーバードクラブで約束があるので市内に出るから、その前にちょっと会おう。
9時過ぎにイェールクラブに行って、そこから駅まで一緒にタクシーに乗ろう」



ということで、翌朝、ロビーで会って、そのままタクシーでペンシルバニア・ステーションまで。
駅の中までわざわざ来て、切符を買うのを手伝ってくれて、プラットフォームに入るところで別れました。
彼は、ハーバード在学中にローズ奨学金で英国オックフォードに留学したという、たいへんな秀才ですが(因みに、クリントン元大統領もイェールから同じ奨学金で留学しています)、全く気取らない、ジョークが大好き、日本も日本食も大好きな、楽しい、そして親切な人物です。

この日も、お得意の「どうも、どうも・・・」と声を出して、手を振って別れました。
この日本語の挨拶がなぜか、大いに気にいっているのです。


4. 時間がなかったので、会話をしたのはほとんどタクシーの中だけ。
2人の写真もごく奇妙な出来になりました。

タクシーの中で、アリスからの手紙と絵本『A DAY ON SKATES』を受け取りました。


なぜこの本を頂いたかというと、この作者ヒルダ・フォン・ストックムさんが、ドクター・ジョン・マーリンの母上だという訳なのです。
母親が1934年に出した本が60年経って再度出版されて、さらには2009年には日本語に訳されて福音館書店から出版された、という事情です。


「日本でも結構評判いいらしいよ。藤崎駐米大使夫人からもほめて頂いた」
というコメントで、帰国してから邦訳の方も買い求めました。
訳者ふなとよし子さんのあとがきによると
「作者の末っ子の経済学者であるジョン・テッパー・マーリン氏・・・には、初版本の入手をふくめ、たくさんの便宜をはかっていただきました」
とあります。

ヒルダさんはアイルランドの美術学校で学んでいるときに、やはりダブリンのトリニティ・カレッジに留学していたアメリカ人のアーヴィン・マーリンと知り合い、結婚したとのこと。
アメリカに行く旅費を工面するためもあって、絵本を書きだした。
邦訳はこれが初めてですが、生涯に20冊以上も絵本・児童書を世に出して、静物画のひとつが1993年発行のアイルランドの郵便切手に採用されたそうです。


5. ということで、アリスとの再会は叶いませんでしたが、短時間とはいえ、ジョンの明るい笑顔と親切にも再び接することができ、日本にも訳された・可愛い絵本まで貰って、これも1つ、今回ニューヨークに行った甲斐があったなあと懐かしく思い出している次第です。