前に「日経ビジネス」1月15日号の特集『YKK知られざる「善の経営」』を面白く読んだと書きましたが、私自身の記録の意味もあって(授業で利用することもあるので)、今回、以下に整理をしておきます。
1. 記事は、ファスナーの世界トップメーカーであるYKKの企業研究であり、同社のユニークな経営に焦点をあてる。
2. まさに「たかがファスナー、されどファスナー」であって、年間生産は100億本近く、5000色・20万種類。売り上げは2359億円と同社総売上げ約6000億の38%。世界70カ国・地域に工場、販売を含めて122の事業拠点をもつ。
3. アディダス、ナイキ、ギャップなどのアパレル大手、ルイ・ヴィトン、フェラガモなどの高級ブランドのファスナーは殆どがYKK製。世界シェアは45%に達し「ファスナーメーカーは何万社とあるが、グロバールなサプライチェーンでYKKの後を追う同業者は存在しない」圧倒的なトップメーカーである。
4. しかも、いまだに本社を富山県黒部市におき、創業者の2代目が現社長で、非上場を貫いている。創業家と社員と取引先で株を持ち、現社長は「我々は自分たちが資本主義だとは思っていません」と語る。それなら何なのか?「(労使が)一緒に働く主義。まあ社会主義的な社風と考えてもらって構いません」。しかもこの60歳の社長、米ノースウェスタン大学のMBA保持者である。
5. 特徴的なのは、
(1)品質・技術・もの作りへの徹底的なこだわり ――ファスナーをローテク産業とも成熟産業とも考えていない。YKKのファスナーは1万回の上げ下ろしに耐えうる。(他方で途上国のメーカーは「1000回持てば十分」と割り切って価格で勝負してくる)。「成熟とはもの作りの精神の弛緩が生む停滞であり、「向上心を持つメーカーに成熟などあり得ない」と考えるのが(創業者吉田)忠雄の哲学」。「もの作りの精神は現場に宿る。本社スタッフはわずかに70人・・・」。
(2)「土地っ子になれ」精神――操業の地・黒部へのこだわりもそうだが、海外駐在においても徹底している。海外勤務30年、20年のベテランが珍しくない。「社員は「仕事が楽しい」と口を揃え」、総じて、社員の満足度は高いようである。
(3)顧客に「尽くす」経営。「10万社近い取引先と常に全力で商売をする」。「ファスナーと名がつくものは、儲からなくても頼まれれば何でも作る」。
・・・・等々。
(4)そして、それらを支えているのが、操業から70年以上経過した今も、4.にも触れた創業者のスピリットが社内に継承されていること。吉田忠雄は高等小学校卒。小学生のときに読んだ米鉄鋼王、アンドリュー・カーネギーの伝記に感動した由。影響をうけて標榜したのは、「「他人の利益を図らずして、自らの繁栄はない」という「善の循環」の思想である」。
長くなったので、この辺で打ち切りますが、記事を読む限りなかなか魅力のある企業です。
ちょっと、大げさではありますが、日本人の誇りを感じるところがあります。
もちろん、「創業家が一線を退いた後の、非上場企業のガバナンスをどうするか」等、課題もたくさんあるだろうと思いますが。
昨今はやりのCSR(企業の社会的責任)論とはひと味もふた味も違った、企業経営の1つのあり方であるような気がします。
今まであまりマスコミの取材に応じて来なかったという同社を、日経ビジネスがよくここまで追いかけたと評価します。