ロイヤルオペラハウスと「シモン・ボッカネグラ」

中島さん、いつも有難うございます。
http://art.pro.tok2.com/B/Bronzino/Allegory.htm
ナショナル・ギャラリーにある絵画「愛の寓意」をよくご存知ですね。題名は知りませんでしたが、昔見たことあり、今回も美術館には行くつもりです。


当方は「中学生からのビール党」と似たようなものですが、ワインもしくは日本酒党です。
前回は、「日本倒産」(?)という恐ろしい話しに触れましたが、14日からロンドン郊外(市内には車と電車で小1時間)に滞在しているので、暫くは、他所の国の話し、しかも硬い話題にはなりそうもなく、
蒸し暑い日本で真面目に働いている方には申しわけありません。


1.(天気について)4日目に入ったところですが、いままでのところ、典型的な英国の天気で、
1日のうちに降ったり、晴れたり、曇ったり、まことに気まぐれに変わります。

昔、聞いたジョークを久しぶりに思い出しました。
「ロンドンでは、外出するとき、今雨が降っていたら、傘は不要。いま降っていなかったら、持参すること」。


その代わり、湿度が少なくて、朝は19度ぐらい、
日中でも今のところ25度ぐらいで、
寒がりの私には、セーターが欲しいぐらいで、快適です。

時差だけでなく、サマータイムで午後9時ごろまで明るいので、いささか寝不足になります。


今回は、15日(木)に見た、オペラの話しです。

2.ロイヤル・オペラ・ハウスで、ヴェルディのオペラ「シモン・ボッカネグラ」を観ました。


このオペラ、ヴェルディの作品(「椿姫」「リゴレット」「アイーダ」等々)の中では知名度の低い方ですが、何といっても、69歳になる、三大テナーの1人、プラシド・ドミンゴがタイトル・ロール(バリトン)で出るので話題です。


年齢が年齢だけに、そろそろ引退かとも言われていますが、いやいや、立派なものでした。
ちなみにドミンゴは、パバロッティと並ぶ、現代テナーの代表選手ですが、今回はバリトンの役です。終始、存在感と迫力のある主役で、終わってのカーテンコールでも超満員の聴衆の多くが立ち上がって、讃えました。

14世紀、イタリアの都市国家ジェノヴァが舞台で、市民階級と貴族との対立が背景。

市民から総督に選ばれたシモン(バリトン)と貴族のリーダー(バス)との対立。娘アメーリア(ソプラノ)と、貴族階級のその恋人(テナー)、アメーリアに横恋慕するシモンの右腕(バス)と、いろいろな人物がからんで、ドラマティックなオペラです。


以下は雑多な感想です。

3.改めて思ったのは、日本でオペラを観るのとは全く違った体験だということ。

むしろ、日本で言えば、例えば京都南座に行ったり、新宿の末廣亭(寄席)に行ったりするのにごく近い、「ちょっと贅沢で余裕がある」が、でも「ごく普通の時間」を過ごしているという感覚。

つまり、昔から、多くの人々にとって「日常生活の1部」に組み込まれており、彼らにとっては別に「特別」のことではない。

観客も高齢者、特に高齢の夫婦が多いし、車いすで来る人も普通に見かけるし、もちろん若い人も来ているし、要は社会全体の人口構成と見合っているといえる。私たちのような旅行客・観光客もそれなりの存在である。



4.「日常生活の1部」と言っても、もちろん、普段の時間を抜けだした「余裕と遊びの時間」であることは間違いない。従って、劇場はそのための「贅沢さ」を十二分に用意する祝祭空間になっているし、過ごす時間も、オペラを楽しむだけでなく、幕間も大事であり、舞台や座席だけでなく、そのための空間も贅沢に作られている。この点も、東京の歌舞伎座(現在、改修のため休場中だが)や京都南座での幕間の時間によく似ている。




オペラハウス自体も、京都で言えば、町中の、蕎麦屋や床屋や銭湯や町家や、公園や京都御所と同じように、街やそこに暮らしたり集まったりする人々と一体化している。

ロイヤル・オペラ・ハウスであれば、地下鉄のコベントガーデンで降りて、歩いて数分。
パブやレストランや様々なお店の並ぶ、賑やかな一角にあります。



5.そういえば、妻と2人で地下鉄に乗ったら、即座に立ち上がって妻に席を譲る青年が居ました。スペイン語の夕刊を拡げていましたが、行動自体が、いかにも「自然」で「普通」で、「特別のことでも何でもない、当たり前の習慣になっているのだなあ」という感想を持ちました。
もう1人、中年の女性もほぼ同時に同じ行動をとろうとして、2人のその素早さに驚きました。

「日本人は若く見られると思ったのに」と69歳の妻は嘆いていましたが。



6.20年ぶりに、ロンドンでオペラを見て、私も、本日は、そういう観客にまじって、贅沢な時間を過ごそうと思い、十分に楽しみました。
座席は、3階のバルコニー・ボックス右端の席。高所恐怖症の我々夫婦にはちょっと及び腰で見ることになりましたが、舞台にごく近く、オーケストラをほぼ真下に見て、端っこなので全部の舞台は見えませんが、ボックス席で独立していますから気楽でもあり、この点も満足でした。


この席は、4人用で、合計200ポンド、1人当たり、7000円ちょっとのお値段です。

これを高いと思うかどうかは人によるでしょうが、こんな贅沢な2時間半を過ごすことを考えれば、日本で歌舞伎を見たり、評判のコンサートの切符を買ったりするよりはかなり安いのではないでしょうか。


7.最後に、面白いと思ったのは、写真撮影についてです。


演奏中はもちろん許されませんが、あとは比較的に自由で、建前は、フラッシュの使用禁止ですが、開演の前後や休憩時間や、カーテンコールの時にいたるまで、結構フラッシュが目につきました。


この辺も「余裕」というのでしょうか。あまりうるさいこと・細かいこと・厳しい規則1点張りの態度は取らず、聴衆が楽しんでくれるのであれば、多少のことは多めに見ようという態度に、感心しました。

私も、お上りさんだから多少の行儀の悪さは許してねと、カーテンコールの写真まで撮りました。