英国の田舎フルべック村に住む日本人女性のこと


1. 英国に旅立つ直前、年下の従妹から久しぶりに連絡があり、「婚活」の依頼でした。
ドイツ留学の経験もあり、ピアノ講師をしている34歳の素敵な女性の親から頼まれて良い相手を探している由。
当てはまったくないものの、京都に住む同じく従妹と息子にメールを入れ、ロンドン滞在中も娘夫婦にその話をしました。京都に照会したのは、彼女がある公益財団法人を運営していて、そこの若い研究員を多く知っているからです。

その京都の従妹からはすぐに以下の返事。
「「私の周りにも、「将来どうするのか」という優秀、美人、健康、けれど相手ナシがゴロゴロいます。到底〜子さんのご依頼まで手が回りません。みんな本当にどうするのだろう」
息子からは以下の通り。
「残念ながらわが社でも男性がさっさと結婚してしまい、適齢期の女性の方が残っているケースが圧倒的に多いのが実情です。
もし逆の話であればたちどころに2〜3人自信を持ってご紹介出来る女性がいるのですが・・・」
ロンドンの娘夫婦も
「当地で働いている日本女性は皆まことに優秀。しかし日本男性には魅力を感じていないのかな・・・」


そう言えば、私のもとの職場の同僚や先輩のお子さんで未婚の女性はたくさん居ることに気付きました。海外でひとり働いたり、キャリア・ウーマンや専門職や研究者だったりで、結婚する意志がないのか良き相手に恵まれないのか、理想が高いのか、よく分かりません。
これでは、総人口が減るだけではなく、優秀な日本人のDNAがますます継承されなくなるのではないかと心配になります。
おまけに「日本の男性に魅力を感じないのかな・・」と言われると、そう言えば、昔私が勤務したシドニーにも豪州人と結婚した優秀な女性を何人も知っています。

2. 実は今回の英国旅行でも、娘夫婦の友人で、英国人と結婚し、田舎のお屋敷に暮らす優秀な女性に会う機会がありました。そのことを少し記録したいと思います。
仮にDさんとしておきますが、彼女は50代の初め。3人のお子さんが居て、アッパー・クラス(上流階級)の英国人と結婚して、おまけに、ロンドンから車で2時間ほど北に行った、リンカーンという町(人口9万人ほど)に近い、人口500人弱のフルべックという小さな村にある大邸宅(上の写真)に住んでいます。



屋敷のある土地は1000年近く某伯爵の所有で、今の家も400年も昔に建てられたそうですが、例えば、19世紀初め、ナポレオンをワーテルローで破った英雄ウェリントン将軍(その後、公爵、首相にもなる)が泊まったこともあるそうで、それがいまもゲスト・ルームの1つになっており、私もその部屋に泊めて頂きました。バスルームの隣室がありウェリントン将軍の肖像画がありました。
しかし、伯爵はいつまでもこの家を持ち切れず、15年前にミスターDが買い上げました。彼は上流階級ですが、貴族ではなく、事業を起こして得た資金で手に入れたものです。以来、50歳前に仕事をいっさいやめて田舎に引き込みました。
家はいまも「フルべック・ホール」と呼ばれ、部屋数が68もあり、敷地は2万坪近くあります。
友人を招いての夕食会も開いてくれました。食事の前には夕焼を眺めながら、庭でシャンペンを飲みました。


因みに「上流階級とは?」という質問に対する答(Dさんの長女)は以下の通りです。
もちろん正確な定義はないが・・・という前置きで,

(1) ある程度の資産家であること
(それも一代で築いたのではなく、昔からの資産であること。前者は「ニューリッチ(新興成金)と呼ばれて、我々とは、価値観やライフ・スタイルが違う」。

(2)学校教育、それもどこの大学を出たというのではなく、大学前にイートン校を頂点とする「パブリック・スクール」を出ていること。
(因みに、ミスターDはオクスフォード大卒ですが、彼にとって大学とは−良くも悪くも−オクスフォードかケンブリッジの2つしかなく、どこの大学を出たかなんていう問いは意味がないだろうとは ミセスDのコメントです。)

(3)人とのつながり。例えば、自身は爵位を持っていないが、親戚や姻戚や親しい友人に貴族がいるとか・・・

の3つだそうです。

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3. 「アッパー(上流)」と「ニューリッチ」とは価値観やライフ・スタイルが異なると言いましたが、もちろん一般論では言えないにせよ、後者の・恐らくは贅沢な日常に比べて、Dさん夫妻の暮らしぶりを見ているかぎり、まことに質素です。
大邸宅に暮らしながら、使用人がいるわけでなく、全て家族で切り盛りしています。旦那は薪を切り、大工仕事をし、料理は奥さんがすべて自分で担当します。私たちも2泊しましたが、ディナー・パーティを別にして、朝夕ともキッチンの食卓で家族とともにつつましく頂きました。


日々の暮らしが贅沢ではないということにはいろいろ理由があるでしょうが、
(1)お屋敷を維持する負担が大きいだろうこと、
(2)子供を「パブリック・スクール」に通わせるための教育費用
に加えて、(3)地域やそこに住む人たちや教会や慈善事業のために負担する費用
が優先する・・・
ということもあるように感じました。

これらはもちろん金銭的な負担だけではなく、時間や労力も必要です。
そしてDさんは、おそらく日本人などあまり見掛けない小さな村に暮らして、英国人と結婚し、田舎(カントリー)に住みつき、夫の良きパートナーとしてこういう日々を支え、大きなお屋敷を管理・運営し、子供たちの教育に力を注ぎ、
地元に溶け込み、社会活動やチャリティに多大の時間を割き、元気よく日々を過ごしています。
旦那の方も、かなり彼女を頼りにしている風でした。彼女の肖像画も大切に飾られています。

これだけのお屋敷を維持していくことだけでも苦労が多いでしょう。
英国で、こういうカントリー・ハウスをいまや貴族が代々持ち続けていくことはたいへんです。ホテルや結婚式場に売却したり、不動産業者が買い取って改装して何軒かに分割して売却するとかの事例も珍しくありません。
「フルべック・ホール」はそういう大邸宅の中ではそう大規模でも豪華でもありません。但し由緒ある建物ではあるわけでミスターDは、この程度なら自力で何とかなると思ったのでしょう。
「私たちは管理人みたいなものです。英国の社会と文化を守るために、こういう歴史的な建物を誰かが保存していかないといけないと考えているのです」というミセスの心構えを聞きながら、
こういう女性にふさわしい日本人の男性が果たしているだろうか?と考えました。