エリートとは?エリート社会とは?

さわやかNさん、我善坊さん、きわめて興味深いコメント
まことに感謝です。

1.「ソーシャルメディアから新しい世論が醸成されていく民主主義」
と若い世代から勃興する「革命」については、私も「ひそかに期待する」
1人ではあります。

ただし、日本のソーシャルメディアがどういう方向に行くかは、前回にも
書いたようにちょっと不透明に思うものでもあります。
(つまり、少なくとも3年前のアンケートでは、日本人は
インターネットを「趣味」としてとらえている人が圧倒的に多い)


また今回の中東の「革命」が果たして本当に市民が希望する
民主化につながるかどうか
についても(もちろん強く希望はしますが)私の判断を超えたところがあります。


なお時局問題は私の得意な分野ではありません。
すでにいろいろな人に紹介していますが小生の友人の以下のサイトが
お勧めです。
(1)情報浴―ブロードバンド
http://mejirokadan.blog.so-net.ne.jp/
(2)中東の窓
http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/

何れも、日本の(日本語による)メディア情報に載らない情報収集
(前者は英語・フランス語が中心、後者は加えて、アラビア語!)
が魅力で前者は国際全般。後者は
(まさに、いま旬の話題である)中東に特化し、何れも貴重な知見が得られます。


2.我善坊さんの「エリート」論についてですが、今回は私の補足説明で終わりそうです。
何れにせよ、いつも学生に、言葉の定義をお互いに
理解しあうことから始めないと議論がかみ合わないよ、と言っていますが、
今回も「エリート」というカタカナ日本語をどう理解するか?
もちろん1つの正解があるわけではありませんが、考えてみたいと思います。


3.2人のスタンスの違いは、
おそらく我善坊さんは、価値判断をともなった倫理学的な理解を
もとにしている、
対して私は、価値中立的(ニュートラル)な社会学の理解にそっている
ということかと思い、以下、後者の立場から補足説明します。


試みに、手元にある「社会学小辞典」(有斐閣)を開くと
説明は(少し硬い、かつ長くなりますが)以下の通り。


・・・「選良ともいう。
通常、社会資源(権力、富、名誉など)の独占または意思決定機能
(ないしは戦略的支配地位)の独占にもとづく権力主体として、
非エリート=大衆に優越する少数者(前者は支配階級、後者は指導層に近い)
を指す。
より正確には、彼らは、一定の全体社会において平均人より優れた内的属性
(知識、人格など)、あるいは社会的活動にとって有利な外的属性
(地位、派閥など)をもつ(以下省略)・・・・」


4.エリート論については
以下の3つのアプローチがあると言います。
(1) その機能的価値を強調するもの(パレート)
(2) エリートを生む組織・制度を強調するもの(ミルズ)
(3) エリート自身の内的属性を強調するもの(オルテガ


おそらく、我善坊さんは(3)にそって
私は(2)に沿って、つまり「ビジネス・エリート」とか「パワーエリート」
といった使用法にそって捉えているのではないでしょうか。

因みに、ライト・ミルズというアメリカの社会学者が『パワーエリート』
を(彼らについて実証的かつ批判的に)書いてベストセラーになったのは1956年です。


5.参考までに、オックスフォード英々辞典(ALD)
引くと以下の通り
・・・権力、知能、富などを備えていることから、ベストあるいは
もっとも重要と考えられる社会グループのこと
(social group considered to be the best or most important because of
their power, talent, wealth etc. )・・・

こちらは、あまり内的属性には触れていません。


6.なお、「セレブ」というカタカナ日本語は
celeblityから来ているわけですが、この言葉を(社会学小辞典にはないので)
ALDで引くと

「有名人、例えばよく知られた俳優や映画スター」とあります
(famous person ex. well known actors and film stars)

従って、「セレブ」と「エリート」とは違うし、
おそらく後者のほとんどが有名人ではない(あるいは有名になることを
欲しない)のではないかと思います。


7.次に、アメリカがエリート社会かどうか
あるいは「アメリカ社会が病んでいるとしたら、
単なる「セレブ」が憧れの的になって、本来のエリートを育てて
社会の役に立てるという視点が失われているからではないか?」
という指摘ですが、長くなりましたので、以下簡単に触れておきます。

(1) 上記のように、「セレブ」と「エリート」は違うし、前者が「憧れの的」
になるのは(それで本人が幸せかどうかは別にして)当然。


(2) 後者がアメリカに居るか?
少なくとも、上記のミルズの系譜の学者からは「イエス」だろうと
思います。


(3) ただ私が「エリート社会」と言うとき、居るか居ないかだけでなく、
・エリートを許容する文化・風土・価値観
・エリートを育てるシステム・教育
があるかを考えており、この点もやはりアメリカには(日本より)「ある」
と言うべきではないでしょうか。


(4) ただ、その「教育」の中身が、オルテガ(あるいは我善坊さん)の
期待するような「内的属性」を鍛えるシステムになっているかどうか
までは、異国の庶民である私には全く分かりません。
少なくとも、日本よりはある、しかし、英国ほどではない、
といったところでしょうか。

(5) 英国のエリート教育については、その典型というべきパブリック・
スクール、とくにイートン校、13歳から18歳まで5年間過ごす
男子校、に触れたいと思っていましたが
紙数がなくなりました。