『ミレニアム1ドラゴン・タトゥーの女』という本


1 arz2beeさん遅くなりましたが有難うございます。
たしかに多くの日本人は「Iを認めるEを好ましく思」うのでしょうね。
そもそも議論する意味があるかどうか自信がありませんが、外交的・社交的な人間であることを強く期待するアメリカ人・アメリカ社会特有の問題意識かもしれません。
ただ日本もこれだけ「ネットワーク社会」が喧伝されている時に、ついていけない人もいるのではないか?と考えたりします。


2. 話が変わりますが、暴力や児童虐待が Iか Eの性向に関係するかどうか分からないのですが、いま話題の『ミレニアム1、ドラゴン・タトゥーの女』(ステイーグ・ラーキン)というスェーデン発の推理小説を読んだ感想を今回記録しておきます。


3. 読んでみたのは、近く映画が日本で公開されるのでその前に、ということ。
何せ、世界中で65百万部も売れたという大ベストセラーだということ。
おまけに邦訳の文庫本の宣伝文句がすごい・・・
「あまりに面白すぎて、どうしてもやめられない」(よしもとばなな
「面白いということばを100回くり返してもまだ足りない」(児玉清)・・・等々


お話は、80歳になるスェーデンの大財閥の主が、40年前に起きた、孫娘のように可愛がっていた当時16歳の少女の失踪事件。
老人は少女が殺された、かつ犯人は身内だと信じており、調査を依頼されたジャーナリストが肌に龍の刺青(ドラゴン・タトゥーのある天才ハッカーと組んで、その謎を突き止める。
その過程で残虐な連続殺害事件やサディストの行動が明らかになる。


4.英語で page turner(どんどん先をめくりたくなる本)という言葉がありますが、この本もそうかなと思って読みましたが、正直、私の読後感はあまり良くなかった。面白いことは否定しないが、不満も多くある。

3部作で話はそれぞれ完結していますが、いまのところ2作目以降を読むつもりはありません。
その理由としては
(1) 構成にちょっと不満がある。
私が読んだのは英訳ですが、上記の少女の謎は全644ページのうち570頁あたりで終わってしまい、残り70頁は電子メールのやりとりなどで別の話(物語の出だしの出来事の後処理)を駆け足で語る、という、やや雑な対応。


(2) スェーデンは全く知らないが、高福祉の・国民の満足度の高い国と理解しているが、ここで取り上げられるのは、性的残虐・暴力であり、バイキングの子孫だから、こんなに暴力的な国民なのだろうか?といささかうんざりする。
本書は4部に分かれていて、それぞれの冒頭に以下の題辞がある。
「スェーデンの女性(以下同じ)の18%は男性に脅かされたことがある」
「46%は男性に暴力を振るわれたことがある」
「13%は通常の性行為以外の場で性的暴行を受けたことがある」
「しかも、そのうち92%が直近の暴行を警察に報告していない」


(3) 普通なら、これを読んで「これは何だ。未報告が92%というのがどうして分かるのか?国として何とかしようとしていないのか?日本の場合はどうか?日本人は比較的に大人しい国民性だと思うが、意外にこういう女性の被害は多いのだろうか?」と疑問に思うだろう。

ところが本書はこういう疑問には一切答えてくれない(もちろん日本の現状を本書から期待するのは無理だが)。
これらの事実は、単に物語を面白くさせるための「枕」に過ぎないという著者の姿勢に、どうも釈然としないものを感じる。


(4) もちろん、そんな硬いことを言わずに、お話を楽しめばいいではないかと反論されそうだが、どうも内向的(I)なのか、それには関係ないのか、男性の(女性や児童に対する)暴力という問題に頭が行ってしまう。


ということで、なかなかpage turnerにならずに、横道に逸れて、
例えば、サディズムとは何か?なんて考えてしまう。


5. 1冊の本を読むと、本来の内容から横に逸れて、間連する他の本を読みたくなるという私の悪い癖については前のブログでも触れました。
福沢諭吉を読むつもりが丸山真男の著作から、丸山の解説書に行き、そこから庄司薫の『赤頭巾ちゃん〜』まで行ってしまう。

今回も、本書の途中で、昔読んだ『サド侯爵の生涯』(渋澤龍彦)を書棚に見つけて再読し、おまけに三島由紀夫の『サド侯爵夫人』も読んでしまいました。

2冊とも実に面白かったですが(ドラゴン・タトゥー〜』のおかげ、と感謝すべき?)紙数がないので紹介は省略します。

ただ以下簡単に。
(1) サディズムは言うまでもなくフランス18世紀に生きたサド侯爵(ブルボン王家ともつながる由緒ある貴族)に由来することば。
(2) しかし渋澤によれば、「彼のサディズムは伝説が語るほど酸鼻をきわめたものではなかった」し、もちろん人を殺してなどいない。
(3) おまけに、渋澤によれば「稀有な自由人であり、天才的な文学者」であった。
74歳で死ぬまで27年間も牢屋等に閉じこめられ、その間に50冊以上の著作を残した。



6. それにしても、自分では何も役に立たないけど、気持だけは妙にフェミニストなところがあって(父親を幼い時に亡くして母親に育てられたという恩義のゆえかも・・)、やはり本書を読んでいちばん気になったのは、スェーデンと日本の、女性や児童虐待の実情と対策です。

その辺を映画がどう伝えるか?
映画も見ようとは思っています。