いまのウクライナを思い起こす、トクヴィルとヴァイニング夫人の言葉

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1.ウクライナの戦争を思い、以前に読んだ本の一節を思い出しています。今回はその中から、2つご紹介します。

 

2.一つは、『アメリカのデモクラシー』(トクヴィル、松本礼二訳、岩波文庫)にある文章です。

 

(1) アレクシス・ド・トクヴィルは19世紀半ばのフランスの政治思想家・政治家。

25歳のときの1831年、ジャクソン大統領時代の,独立して55年しか経たない若いアメリカを旅し、帰国後、35年に本書の第1巻、40年に第2巻を刊行しました。

 

(2)著者自ら「アメリカは額縁に過ぎない。主題はデモクラシーである」と言うように、以来本書は、近代民主主義思想を語るときに欠かせない古典になっています。

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(3)そしてトクヴィルは、本書で、「米国とロシアが他のすべての国を圧倒しさるであろうと予言した」と言われます。以下の箇所です。(岩波文庫第1巻(下)の「結び」)。

   

―「目的の達成のために、前者(アメリカ人)は私人の利益に訴え、個人が力を揮い、理性を働かせるのに任せ、指令はしない。

  後者(ロシア人)は、いわば社会の全権を一人の男に集中させる。

  一方の主な行動手段は自由であり、他方のそれは隷従である。

  両者の出発点は異なり、たどる道筋も分かれる。にもかかわらず、どちらも(略)いつの日か世界の半分の運命を手中に収めることになるように思われる」。

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3.本書が書かれたのは180年以上昔、まだ革命前の帝政ロシアです。

(1)しかし、戦後、米ソ対立を予言する言葉として知られました。

(2)その後、冷戦の終結とともに、忘れられました。

(3)それがいま、再び不気味な予言が蘇ってきたのでしょうか。

(4)それとも、「プーチンは自壊に向かいつつある」(藤原帰一教授)」「武力を頼む国は自滅する」(加藤陽子教授)となるでしょうか。仮にそうなったとしても、それまでにどれだけ多くの血が流されるでしょうか。

(5)そして、トクヴィルが予想しなかった「EUNATO」と「中国の台頭」は、どのように影響するでしょうか?

 

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  1. もう一つは、エリザベス・G・ヴァイニング夫人の言葉です。

(1)ご存知の通りヴァイニング夫人は、招かれて、1946年10月から50年12月まで、12歳から16歳までの当時の皇太子(現上皇)の家庭教師を務めました。

(2)帰国後、回想記『皇太子の窓』を刊行し、ベストセラーになりました。

(3)彼女は本書で、皇室一家との交流や皇太子や学習院での教育についてとともに、

敗戦直後の日本についても観察します。

(4)1章を割いて、極東国際軍事裁判東京裁判)を傍聴したことを記録し、その中で「戦争は私たちをけだものにする」と語ります。

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即ち、

――傍聴する前に裁判に提出された起訴状を新聞で読んでいた彼女は、「日本の陸海軍によって行われた暴行虐待の事実」を知り、衝撃をうけます。

「自制心あり、礼節に厚く、日常他人に接するときあのように親切な国民が、なぜ戦時にはあのように傲慢残忍な人間になれるのか」と自問自答します。

そして、「説明の鍵は、「戦時に」という言葉の中に存在するのだ。戦争は私たちすべてをけだものにする」と述べます。

同時に母国のアメリカ人に対しても、他国を糾弾しつつ自分の国の人間が太平洋で行った残虐行為については「知らぬが仏」でいるのだ、と怒ります。――

 

(5)原文は、“War makes us beasts of us all”。「Us all」、つまり私たち誰もが戦争では、かくも「残忍」なbeastになりうる・・・・。

 

(6) ヴァイニング夫人は、スコットランド系のアメリカ人で、フレンド派(クエーカー)のクリスチャン。同派は平和主義の信条を守り、「良心的兵役拒否」の態度でも知られます。彼女自身、帰国してからもフレンド派の活動に熱心に参加し、1969年のベトナム戦争反対のデモの座り込みで逮捕された経験の持ち主です。

 

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(7)皇太子の個人授業では、 「平和についてはよく話をした。始終、平和と小鳥たちについて話をした」と著書で述べています。