イチロー続きと「レガタム繁栄度指数(Legatum Prosperity Index)」

1. 藤野さん・下前さん(何れもフェイスブック)、過分なコメント、まことに恐縮です。生粋の京都人のお言葉は、「叱咤激励」と理解しなければいけないと肝に銘じております。

中島さん(フェイスブック)さわやかNさん、度々の発言有り難うございます。

イチローアメリカの野球に違う土俵を持ちこんで成功し、松井は同じ土俵で挑んで日本人としてはよくやったという指摘は面白いですね。
ご指摘のシスラー選手の遺族とイチローの交歓はこの場面ですね。

「自分基準を一般基準にする」という視点は授業でも紹介したいと思います。
『USAスポーツ狂騒曲』という本は知りませんでしたが、スポーツを国威発揚に使う国が多いのもこういう流れを後押ししているように見えます。


2. 今回もイチローについて、ホワイティングの著書からフォローします。
彼はNHKの番組で以下のようなことを言っているという。


「成功という言葉は嫌いだし、記録、記録と騒がれるのも嫌いです・・・・一番大事なのは、ベストを尽くしたかどうかです。準備をしっかりして、全力をだしきったかどうかです・・・そこまでやったのに、ほかの人間に先を越されたら、それはもうしかたがない」

いかにも優等生の発言だなと思うが、まことに正論でもあるでしょう。
こういう人物が、インタビューが(そもそもマスコミが)大嫌いというのはよく分かるし、テレビが連日オリンピックでメダルを幾つ取った・・・と大騒ぎしているのも苦々しく見ているでしょう。


3. イチローの発言を続けますと、
「あなたがアメリカで成功した意義は?」と訊かれて
「日米の距離が縮まったことだと思う」と答える。
ホワイティングはこれに加えて、イチロー登場の意義は、「諸外国の人間と本当の意味で競い合える・たくましい人間、生身の日本人を見せたこと」にあると言います。
「日本は高度な訓練を積んだ“顔のない組織人間”たちが堅苦しい歩き方で行進する国、と思われていた→ しかし、とうとうイチローが登場した。」


これらを具体的に言えば、
(1) イチローの活躍がシアトルやアメリカ北西部にもたらした経済的効果のほかに
(2) 彼の日常態度や職業倫理がアメリカ人一般に与えた影響がある。例えば、
・真摯な練習態度や、毎日、道具の手入れを自分で丁寧にやる(アメリカ人の選手はそんなことはしない)
・球団から提示された年俸に文句を言わない
・「不作法に感情を爆発させたことは一度もない。たとえ審判の判定が間違っていても、肋骨に速球をぶつけられても、冷静さを失ったことは一度もない」
・・・・等々


4. 他方で、もちろんイチロー(に限らず多くの日本人選手が)アメリカで野球をすることを大いに楽しんでいる。それは、
メジャー・リーグに挑戦する満足感や金銭的な理由や天然芝といった技術的な理由のほかに、この国の、陽気で伸び伸びした「自由」な空気に触れた点にあるでしょう。

「自分のサラリーや練習メニューを、生まれて初めて自分で決められる」。
他方で依然として「徒弟制度」の「日本じゃ、まるで子供扱いだから」(野茂英雄

アメリカのファンの反応がわかりやすい、という点もあると言います。
アメリカ人は見ていておもしろいんだ。選手と同じく、あくまで個人主義だからね。日本では応援団以外の席はシーンとしている」(イチロー


「いいプレーをすれば、思い切り拍手喝さいしてくれる。下手くそなプレーをすれば、ブーイングが飛んでくる。日本ではいつだって同じだもんな。トランペット、笛、応援団のかけ声・・。スタンドのほかの席は静まりかえっている」(松井)


もちろん、アメリカで感じたマイナスも多い。
(1)野球そのものについても、束縛のないやり方を評価する一方で、不完全なアスリートを生む可能性・・・基本が出来ていない、野球のだいご味(連携プレーなど)を知らない選手が多い、等々の不満や、
アメリカ人がこだわる暗黙の了解事項も理解しにくい、と言います。 
――例えば、犠牲バントや大きくリードした場面での盗塁はアメリカでは好まれない・・・等。
遠征の多いのもきついと言う。
(2)もちろん日々の暮らしでの、英語・食事・風俗慣習の違い、そして、時に経験する人種差別・・・等もストレスになっていることでしょう。


それでも、「自由」と「自己責任」という点で、祖国と如何に違うか、ということをしみじみと感じているだろうと思います。


5. と書いてきたところでレガタム研究所(Legatum Institute)というシンクタンクが発表している国別の「繁栄度指数(prosperity index)」を思い出しました。

ここは私もよく知りませんが、2007年ロンドンに設立された、まだ新しい研究機関で2008年から110国についての「繁栄度」のランキングを毎年発表しています。
http://www.prosperity.com/
繁栄度を「生活の質」で計るという考えで、
評価の項目は(1)経済(2)起業家精神(3)統治の仕組み(4)教育(5)健康(6)治安と安全保障(7)個人の自由度(8)社会資本の8つ。
これらについての世界銀行などのデータ合計89を使って分析するとのこと。

私は、写真にある「タイム誌」の紹介(2010年の順位)で知りました。
2011年のランキングのトップ10は、1位のノルウェイから
デンマーク、オーストラリア、ニュージーランドスウェーデン、カナダ、
フィンランド、スイス、オランダと続き、アメリカが10位です。


因みに韓国は24位、中国52位。

(新聞が連日載せている、オリンピックのメダル獲得の国と比較してみると面白いです)


日本は?というと
総合21位で、アジアではシンガポール(16位)、香港、台湾がすぐ上に位置します。
日本で際立っているのは、項目別にみて「健康」が5位と高い一方で、「個人の自由度」は何と51位に過ぎないという点(他の6項目はほぼ総合の順位に近い)。


「個人の自由」について補足すれば、アメリカは12位、トップはカナダで、以下、ニュージーランドノルウェイ、オ―ストラリア、デンマークと続きます。
他方で、韓国は50位で、中国は110カ国中、実に91位。


もちろん、特定の私的な研究機関の判断ですから(著名な学者が参加しているようではありますが)、異論はいろいろとあるでしょう。
しかし、我が国が、「自由に・伸び伸びと暮らす国」としては高く評価されていないというのが、外からの1つの見方ではあるようです。