田舎で暮らす日々


1. arz2bee さん、有り難うございます。まことに正論だなあ、と感じ入った次第です。
「皮を切った程度の皮肉」「リーダーの重要な“脂質”」、何れも、思わずにやっとしてしまう言葉ですね。
前回、オバマの演説のサイトを載せ忘れましたが、
http://www.youtube.com/watch?v=OykLAV-69QE&feature=related

まだ何度も見ています。八ヶ岳山麓で、アメリカ大統領の映像と肉声をPCから(ということは殆ど無料で)フォロー出来るのですから、老人にとっては驚きの技術進歩です。


2. 他方で、秋の高原にいて、ローカルな人たちとの付き合いもあります。
先日は、妻と2人で地元のすし屋のカウンターに座りました。
ここは、山に囲まれた茅野市にあって、味自慢の・しかも東京のような高価な店でなく、助かります。夏がほぼ終わって我が家への来客も一段落したので、料理他接待担当の妻への慰労もあって足を運びました

この店が気に入っているのは、40代初めでしょうか、我々が「大将」と呼んでいる主人の話がなかなか面白い、職人としての哲学を聞きつつ、空いている時に彼と交わす会話が楽しみです。


3. この日も最初は我々2人だけで、そのうち偶然隣に座った2人が、もっぱら夏にこの地でお付き合いする友人夫妻で、「大将」との会話も弾みました。


(1)
回る寿司が主流になって、「そのうち、本物のすし職人は居なくなるのではないか」や「いまの若い子は根性がね・・・」という話から始まり、


「どうして女性のすし職人が出ないのかな?」と私が訊き、
彼は「自分は反対ではない。女性でももちろん務まると思う。ただ修業について来られれば、の話だけど」という答え。
おそらく、まことに厳しい修業なんだろうな、と想像される口ぶりでした。

だから、男性でも若い子はなかなか育たない。
他方で、自らは、修業した親方から「一生に一人でいいから、ちゃんとした弟子を育てろ。それが、お前がただ一つ出来る“恩返し”なんだ」と言われたそうです。
まだ、恩返しが出来ていないのかな・・・


(2)そこから「教育とは?」という話になり、
「自分たちは、教育は教わるものじゃない。盗むものだ、と言われたもんです。
死ぬほど見ろ、とも言われました」
「握りながら、お客さんに愛想よく話したりしていると、あとで“小鳥みたいに喋るな、黙って仕事しろ”と怒鳴られた」そうです。

・・・まだ、こういう、現場が命みたいな職人さんが居るって、厳しだろうけど、いいなと思いつつ、忘れないように、殴り書きでメモに書きとめました。

手ぶらで行ったので、妻に「何か書くものある?」と訊いたら、もう10年以上も前にアメリカにセンチメンタル・ジャーニーをして夏のタングルウッドの音楽祭に行った時に泊まった、実に素敵なホテル「ブランタイア」の部屋に置いてあった名前入りのメモ帳が彼女のハンドバッグから出てきたので、ちょっとびっくり。
女性のハンドバッグって、何が入っているか分からないな・・・・と感心した文章が、たしか團伊玖磨の随筆「パイプのけむり」にあったな、と思い出しました。


(3)もっとも、「大将」は、ただ盗め、だけでなく、自分自身は「オープンに、何でも伝えています」とのことで、妻はもっぱら、料理の下ごしらえや味付けのことを聞いています。
日本料理の味付けは、当然ながら、しおとしょうゆと味噌。
中でも、東京はしょうゆで、信州は何と言っても、味噌・・・・から講義が始まりますが、あとは省略。

4. 合い席の友人夫妻との会話も弾みました。


前回紹介した、オバマ大統領のスピーチに、“you (あなた方)”という呼びかけが実に多くて印象的だったという話―――
“You were the change(変化を成し遂げたのはあなた方なのです
" I am hopeful because of you (私が希望を捨てないのは、あなた方のお陰なのです")”等々――から発展して、


彼から、英語は原則として“I”と“you”しかないでしょ。他方で、日本は言葉の上からして相手を差別する社会なんだよ、というコメントがあって、面白く聞きました。

「そう言えば、アメリカに行って英語で喋っていると、もちろん下手くそなジャパニーズ・イングリッシュなんだけど、タテ社会の言葉づかいを気にせずに居られるせいか、ある種の解放感がありますね」と私が応じ、


彼から
「若い人が、“マジ”だの“チョー”だのと言うでしょう。マンガが好きでしょ。
あれは、差別社会の言葉から解放されたいという、(日ごろのタテ社会の人間関係に対する)抵抗感から来ているんだと思う」
というコメントがあって、これも面白く聞きました。


「マジ」や「チョー」・・・・に眉をひそめるのではなく、若者として、そこに、せめてもの抵抗の姿勢を示しているんだ。


少しこじつけと思う人もいるかもしれないけど、70歳をとっくに過ぎて、こういうリベラルな発想ができる感性が、私にはたいへん気持ちよく思われました。

という具合に、ローカルな、些細な会話をあちこちで交わしながら、秋の一日が過ぎていきます。