懐かしのシドニーと20年前の失敗談

1. 海太郎さんコメント有難うございます。
同じオフィスビルに勤務していたのですね。
20年前私が勤めた銀行はいまも同じビルに居を構え、合併もあり当国経済の好調もあって、順調に発展しているようです。
オフィスを訪れ、写真のようなオフィスでこういう光景を日々眺めながら仕事をしたのだなあと懐かしく思いました。

2. そう言えば「シルバーコロンビア」とかいう話がありましたね。
お役所の構想なんかに関係なく、海外で住みたい人は自分の意思で自由に住むでしょうね。
オ―ストラリアはいま7万5千人の日本人・日系人が暮らしています。
日本企業の駐在員は減っているが、逆に移住者は増えているそうです。

もっとも、昨今は当国の人口が急増していること、不動産価格を筆頭に物価が高騰していること等から、日本からの移住は、これからは難しくなりそうです。


人口は、私が住んでいた約20年前は17百万人弱でしたが、いまや22百万。
しかも、その大半を、中国・インド・中東が占めて、ますます多民族国家になりつつあるようです。



中国人の数が増えたことは今回会った人たちが口ぐちに語ったことです。
「私の住む静かな郊外の住宅地もいまや周りは中国人だらけ。
香港から来た富裕層が多い。この国は、それなりのスキルがあり、かつ1億円規模の国債を購入すれば容易に定住のヴィザを得られる。
まず若い夫婦が来て住みつき、両親や家族を大勢呼び寄せる。
古い家を買って、それをすぐに豪邸に改築してしまう。
2軒、3軒と買って、それを人に貸す・・・・」

こういう、リッチかつ生活力旺盛な中国人が街にあふれているそうです。
経済の活況のためには良いのでしょうが、社会にさまざまな変化も与えていることでしょう。
不動産の高騰もその1つで、若い世代が持ち家を購入しようと思ってもなかなか手が出なくなった、という嘆きも聞きました。


中国人はとくに不動産投資に熱心なようです。
彼らに比べると、日本人は一般にあまり投資や金儲けはうまくないというか、そもそも関心が低いような気がするのですがどうでしょうか?
いわゆるアメリカ的な「greedy(貪欲な)」なところが日本人には少ないのではないか。
もっとも、脱税でつかまった某不動産王(たまたま同姓ですが関係ありません)や最近の株高と個人投資家の動きなどをみると、だいぶ変わっているかもしれませんが。

3. オーストラリアにとって日本は1970年代の初めから30年以上、最大の輸出国でしたが、最近では中国に抜かれました。

それでも、対日感情はとても良く、住みやすいという話をあちこちで聞きました。
「中国は最大の輸出国だが、日本は大事なパートナーであり、日豪パートナーシップは21世紀においてもっとも重要な2国間関係の1つである」
というコメントも聞きました。

たしかに、海太郎さんご指摘のように、この国との関係が大事だという認識をもっと持つべきでしょうね。


私たちが駐在した時期、約20年前はまだ日本の長引く不況の前で、日本は最大の輸出国(鉄鉱石・石炭などの資源を中心に)でもあり、この国への企業の投資も盛んでした。

当時の駐在員が日本からの出張者をもてなす場所として、日本風のナイトクラブが増えたのもこの頃で、その1つに上品で和服の似合う・素敵な女性がいつもお店に座っているところがあり、「マドンナ」と呼ばれて人気がありました。
日本では専業主婦でまったくの素人の方ですが、日本舞踊の名取でしとやかな・しかししっかりした女性です。

私自身はあまりこういう場所は得意ではなかったのですが、営業活動の一環で、とくに日本の支店から「大事なお客さんだから」という紹介で出張してくるような人たちを連れて時々、案内して、皆さん、昔の銀座のクラブのような(と言っても実は知りませんが)もてなしを受けて満足してくれました。


4. 今回一緒に行った1人が、この「マドンナ」と今も連絡が取れるのでということで、私であれば20年ぶりに再会することが出来ました。
私たちより少し年下で、いまは引退して息子さん夫婦に経営を任せていますが、お店自体は場所は変わっても健在です。

この夜は、相変わらず、素敵な「十字がすり」の和服姿で現れ、昔話に花が咲きました。

当時はたいへん口の堅い女性で他のお客さんの話など一切聞きませんでしたが、今回はもう引退されたし、時効でもあろうということで、昔の駐在員仲間の噂も出ました。

そういった会話の中で、
「実は、某さんを覚えていますか?」という質問が出て、
私はすっかり忘れていたのですが、以下のようなエピソードを話してくれました。
豪州での不動産投資などに関心を持って出張してきた中小企業の経営者で、日本での某支店の大事な取引先。
  「是非とも十分に接待してほしい」とこの支店に頼まれて、私が一晩お付き合い。
2人で夕食のあと、マドンナのお店にお連れした。
ところが、まことに品の悪いお客さんで、お店の女性にすぐに手を出そうとする、「マドンナ」にも平気で同じような行動に出る。

あまりに無礼かつ強引な態度に、本来最後まで接待しなければならない私が、憤慨してもお客さんですから何も言えずフラストレーションだけが溜まり、同席するのに嫌気がさして、「頼むからあとはマドンナにお任せする。うまくやってくれ・・」と彼を一人お店に残して、先に帰ってしまった・・・・というのです。


私自身、まったく覚えておらず、どういう人だったか顔も名前も出てきませんでした。
それにしても、大事なお客を置いて接待役の銀行員が先に帰ってしまうというのですから、これは前代未聞の失礼な行動というか、昔から、マイペースの我儘な人間だったなあ、これではサラリーマンとして出世する筈がないよなあ、と今頃になって(もう遅いですが)反省しました。


5. マドンナには、後の対応を押し付けて自分はさっさと逃げた訳ですから、何とも迷惑を掛けたでしょうが、ただ、彼女は実にしっかりと対応してくれるだろうという強い信頼も私にあったのだろうと思います。

予想した通り、彼女はこのお客に毅然として対応し、「紳士だったらそういうことはするものではない。ここはそういう場所ではない」とお説教をしたことでしょう。

そのお客さんも、実は根は良い人だったようで(そういう人っていますよね)、マドンナの応対にむしろ感服して、すっかりファンになってしまったようです。
その後もシドニーに来る度に寄ってくれて、すっかり仲好くなり、進出した事業もうまく行き、息子さんの世代への友人同士の交流に発展している・・・

いまでは、いいお客さんを紹介してもらって感謝している・・


そんな話でした。

もう時効だから良かろうということで、「過去は水に流す」日本人の美徳に倣いつつ、
20年前の私の若き失敗談に、あらためて深くお詫びした次第です。