タイム誌:劉明福と習主席の「チャイナ・ドリーム」


1. さわやかNさん有難うございます。
「ヘア」とは懐かしいですね。来日公演とはアメリカでまたやっているのですね。
初演は1967年NYのブロードウェイ。ベトナム戦争中に反戦のメッセージを掲げたのと当時まだ珍しかった全裸で踊るシーンで話題になりました。
私が始めてニューヨークに暮らしたのが1966年から。ベトナム戦争と黒人公民権運動の時代ですから、このミュージカルにも強烈な思い出があります。
1968年にはキング牧師ロバート・ケネディが暗殺されるという悲劇もありました。
遠く遥かな青春時代です。


2. アメリカの話はまた何れということで、今回取り上げるのは珍しく中国の話題です。言うまでもなく習近平オバマに会いに行ったという出来事をふまえています。

時々ここでも紹介する米国「タイム」誌6月17日号が「中国は世界をどう見ているか(The World according to China)」という6頁の特集記事を組んでおり興味深く読んだので、ごく簡単な要約を以下に紹介します。

「前書き」は「自己主張の強い(assertive))新しい指導者・習近平の下で、北京政府は世界が中国を強大国と見なすことを期待している。しかし、国民の多くは彼が語る「チャイナ・ドリーム」にそれほど確信を持ってはいない」とあり、本文は以下の通り。

(1) 劉明福(Liu Mingfu)という、新時代の預言者を自認する人物がいる。
退役軍人(元大佐)の彼はアメリカに行ったことはないが、米中関係の専門家と称し、国立防衛大学でも教え、2010年には『チャイナ・ドリーム、ポスト・アメリカ時代における大国としての思考と戦略的位置』(China Dream :Great Power Thinking and Strategic Positioning of China in the Post-American Age)と題するベストセラーを書いた。
その中で彼は、(1)中国は強い・戦闘的な指導者を必要としている(2)アメリカの封じ込めに抗するためには武力に訴えることも辞するべきではない,と主張している。

(2) 劉は習近平(Xi Jingping)が新しい指導者になって満足である。
就任後、習は、領土問題で強硬な姿勢を示し、軍は戦争に備えなければならないと述べ、劉の「チャイナ・ドリーム」をモットーとして採用し、「我々は中国の偉大なる再生(The great revival)を達成し、国の繁栄と強力な軍事力とを統合して実現しなければならない」と誓った。「夢」の達成期限は建国100周年の2049年とした。
このような彼の強硬路線は、「平和開発」と「調和のとれた社会」をスローガンに掲げた前任者・胡錦濤と対照的である。


(3) 近代に入って古く誇るべき自国の文明が西欧や日本の銃剣に力で屈服させられたというのが中国の歴史認識であり、習の前任者達は常に「屈辱の世紀」について語ってきた。
しかし、習の登場は、新しい中国の幕開けとなるかもしれない。
「チャイナ・ドリーム」は、自らを、世界の中の適正な位置に戻し、経済のみならず政治・文化でも強大な国家として構想するものである。
そのため習は、6月始めのオバマとの会談において、両国関係が「重大な節目」にあるとの認識に立って両者が対等な「新しいタイプの大国関係」を築く必要性を示唆するであろう。
劉はそのような習主席に大いに期待し、「彼の下で、中国は西欧と対等に競争し、地上で最強の文明国だった過去の栄光を取り戻すだろう」と語る。


(4). 中国が短期間に成し遂げた実績は現状でも十分驚異的である
短期間で3億人の国民を「絶対的貧困」から抜け出させ、2012年の年間海外旅行者83百万人(2000年の10百万から急増)は世界で最大であり、世界最大の輸出市場であり、巨大な海外投資・援助を続けている・・・等々。
仮に習の言う「チャイナ・ドリーム」がうまく行けば、21世紀は中国のものと言ってもよいだろう。


(5). それにも拘わらず、世界が中国を見る眼は同国にとって決して好ましいものではない。例えば、5月に実施されたBBCの21カ国調査によると、中国への否定的な反応は前年比8%増えて39%となった。軍事力の増強や領海における攻撃的な姿勢が不安を与えていることは言うまでもない。


(6). 国内はさらに深刻な社会問題を抱えている。
教育水準、格差増大、党幹部の汚職・腐敗、環境・公害等々。その結果、国外へ移住する富裕層も増え続けている。
この春、人民日報はリンクのあるインターネットサイトで、チャイナ・ドリームを含む習主席の考えに同意するかどうか国民に訊いたことがある。何万もの国民が調査に応じて回答し、70%が不同意と答えた。調査結果はすぐにサイトから削除された。

(7). 習主席がもっとも懸念するのは共産党の永続性である。
彼はソ連共産党の崩壊の過程や原因に多大の関心を寄せており、
ソ連の崩壊は共産党の理想と信念が揺らいだためであると信じ、
中国はその過ちを犯してはならないと肝に銘じている。
しかし、そのような強迫観念は、中国を強大な国家にし、同時に海外の評価を高めるために真に必要な共産党自体の改革を遅らせるのではないか。
そこに、チャイナ・ドリームのジレンマがあるのではないか。現に、公害対策よりも成長優先のかけ声に変化は見られないし、最近も党幹部の腐敗を糾弾するある活動家が拘束されている。


もちろん50年以上前から中国共産党の崩壊を予言するチャイナ・ウォッチャーは多いが、それらの見通しはすべて当たらなかった。
しかしそれでも、「中国が世界をどう見ているか」と同じく、或いはそれ以上に「世界が中国をどう見ているか」も大事なのではないか。      


3. 以上が「タイム」誌記事の要約で、冒頭に「興味深い」と書きましたが、強硬かつ軍事大国の道を突っ走る隣国の動きというのは、むしろ「気になる」と言った方がよいかもしれません。