1.前回の豪州ラグビーの話、藤野さんコメント有難うございます。「4年に1度じゃない、一生に1度」のワールドカップを大いに楽しみにしておられるでしょう。
岡村さんも、京都宝ヶ池球技場にラグビーを見に行った思い出話を書いてくださいました。以下その引用です。
"平尾、大八木、大畑が学生で出場してた頃は特によく行きました。芝生から正面に五山の送り火の一つ「妙」が大きく見える、のどかな所です。南アの一戦でエディー・ジョーンズの指示に従わず、選手達が声を掛け合ってスクラムを選択した由。宝ケ池では激しい攻防と共に選手達の声が聞こえるので、考えている事と何を選択するのか分かるのです。声が聞こえると思うとスクラムトライを狙えと言いたくなるのです。"
「言いたくなる」気持よく分かります。因みに対南ア戦の、その場にいた長女夫婦の話では、この時も,聞こえなくても観衆は一斉に「スクラム!」を叫んだそうです。
若者が運動している姿は、老人には羨ましいです。朝の散歩時には東大駒場キャンパスで野球部の練習風景がよく見られます。
2.ところで、今回は話変わって香港です。
(1)英国「Economist」と米国「Time」の先週号の表紙は、ともに「香港」でした。
前者は「抗議する香港」後者は「香港の反乱」と題して、「逃亡犯条例の改正」をめぐる、英国から中国への返還以来最大規模かつ継続的なデモについて報道しました。
(2)香港は、中国の特別行政区で、「一党支配の国と自由世界とを結びつける橋の役割を果たしている。世界で8番目の輸出基地であり、世界4位の株式市場をもち、1300以上の海外企業が地域本部をおいている」
「中国語と英語の両方が公用語であり、自由でコスモポリタンな生き方が認められている。中国本土と異なり、司法の独立や自由度で国際的に高い評価を得ている」。
(3)1997年、英国が香港を中国に返還する時に、中国は「今後50年間にわたって(このような香港独自の)高度の自治を認める」と保障し、「一国二制度」と呼ばれる。
しかし、それが口約束で終わるのではないかと香港人はことあるごとに危惧しており、今回、条例改正の動きを機にそれが激しい抗議行動として現われた。
3以下は、私なりに記録しておきたいことです。
(1)リーダーシップをとったのは、2014年の「雨傘運動」で活躍した人たち。あの時は結局成果をあげられなかったが、「私たちは必ず戻ってくる」と約束した、その通りの行動になった。彼らは2016年に「香港衆志(デモシスト)」という政党を結成。但し、うち幹部3人は「雨傘運動」を扇動した罪で服役中。
(2)これだけ大規模に広がったのは、習体制のもと中国本土の管理・統制が強まっていることへの危機感があることはもちろんだが、6月4日に天安門事件の30周年を迎えたことも大きい。
「天安門事件がオープンに記念されたのは、中国広しと言えども香港だけ。あのとき鎮圧された抗議の精神が、30年を経て再び火がついた」(タイム誌)。
(3)この「デモシスト」の結成メンバーの1人、周庭(アグネス・チョウ)さんが来日して6月10日、東京の日本記者クラブで記者会見を開きました。
You tubeで見られます。
https://www.youtube.com/watch?v=U8qpLjbKjEg&feature=youtu.be
彼女は日本のアニメが大好きで、独学で日本語を学んだ由。この日の会見も日本語でした。日本語のツイッターもあります。立派なものです。
彼女は、いま22歳の大学生ですが、「雨傘運動」のときは17歳、香港の民主化運動の「女神」と呼ばれ、象徴的な存在だそうです。
以下は当日参加した記者の感想です。
――「条例が改正されれば、中国本土への容疑者の引き渡しが可能になる。自治が認められているはずの香港に、中国の(司法の独立のない、共産党指導の)法律が適用される懸念が強まるのだ。周さんは、香港人のみならず、観光客や駐在員にも恣意的な法の執行の懸念があると強調し、国際社会に連帯を訴えた。
また彼女は、会見で「怖い」という言葉を何度も使った。巨大な中国政府を相手にすることは「しんどい」と、率直な感想を述べた後、「私が一番好きな場所は香港です。香港は私の家だから、簡単にあきらめません」と、自分に言い聞かせるように答えてくれた。そして、「試してみないとわからない。わからないから、試さないとだめだと思います」と言葉を続けた。―――
(4)周さんの日本語のツイッターは https://twitter.com/chowtingagnes
英語が公用語の香港の若者はもちろん英語で世界中に発信しています。SNSの威力を感じます。
4.大規模デモを受けて、香港の行政長官が謝罪し、条例改正の延期を発表しました。しかし、エコノミスト誌は20日付の報道(電子版)で、「事態は収束しておらず、混乱はまだまだ続きそうだ」と以下のように報じています。
(1)6月16日(日)に続いて、21日にもデモ。中国への返還記念日7月1日には、さらなる大規模な抗議デモを主催者は呼びかけている。
(2)中国(共産党)は、今回の条例改正を強く支持しており、抗議デモは外国からの陰謀だとの姿勢を崩していない。
今年の10月1日は、建国70周年を祝う節目の年であり、何より面子を重んじる彼らは、自らの判断ミスを決して認めないだろう。香港行政府の対応にフラストレーションを高めている筈である。
5.(1)このように、両誌は、周さんが記者クラブで述べたように、「巨大な中国政府を相手にして抵抗がいつまで可能だろうか」と危惧する人たちが香港にも、英米の専門家にも少なくないことを伝えています。
(2)エコノミスト誌の論説は、「22年前に香港が中国に返還されたときには、「二つの制度」は共存していくだろうと皆が考えていた。しかし、デモ参加者が今回明らかにしたように、そういう方向にはなりそうもないようだ」と悲観的なトーンで終わっています。
1997年時点で英国は、50年も経てば中国自体も民主化するだろうと楽観的だったのかもしれません。しかし、事態はむしろ逆の方向に動いているようです。中国共産党は、民主化に一層背を向け、国内での自由や人権の抑圧を強めており、二制度を守る意思など持っていない。むしろ、今中国がここまで成長し、貧困を抜けだした5億人の中間層が豊かさを享受しているのは、一党支配の強力な指導と管理があったからで、西欧流の民主化はむしろ弊害をもたらす、これが彼らの公式見解でしょう。
しかも気になるのは香港の中国に占める重要性です。返還時、香港は中国GDPの15%強を占めていた。いま中国本土の経済急成長でその比率は2.9%まで下がっている。中国はむしろ香港の経済的重要性を弱めようとしているのではないか。
(3)返還時の50年後と言えば、今から28年後の2047年、中国が建国100周年を迎える2年前になります。
周庭(アグネス・チャウ)さんは50歳になっている。
そのときまで、彼女は無事でいられるでしょうか?
そのとき、香港の自由と民主主義はどうなっているでしょうか?
英米の主要メディアは、そういう懸念や危惧を抱いている人たちと彼らの言動を伝え、だからこそ今回の抵抗に意義があり、英米も率先して支援すべきだと訴えています。
6.
しかし、目下、保守党の党首選びと新しい首相の登場に向けて党利党略に明け暮れている英国の政治家たちには、いまとてもそんな余裕はなさそうです。
香港特集の前々号の同誌は「次に来る打撃:英国憲法」と題し、議事堂がダイナマイトを抱えている写真を表紙に載せました。
記事では、今回のBrexitをめぐる混乱が政治問題だけではなく、英国が誇り、世界にとって理念型・モデルと言える「議院内閣制」と「英国型憲法」の大いなる危機でもあることに警鐘を鳴らしています。