タイム誌が語る「ドナルド・トランプとは?}

1. 元旦以来、東京はおだやかな陽気が続いていますね。梅の名所として有名な世田谷の羽根木公園も例年より早く少し咲き始めたそうです。早速散歩に行って早咲きを撮ってきました。

人間社会は今年もおだやかではなさそうです。
アメリカ大統領選挙の年。
大富豪の不動産王、ドナルド・トランプがまさか共和党の大統領候補に選ばれるのか?にわかに信じられないようなことがこの国に起きています。
予備選挙や党大会が2月早々にも始まりますが、ここでトランプが勝つか?
アメリカのメディアは「トランプ・ショー」と呼んで、彼の記事が載らない日はありません。
野次馬として見ていれば面白いけど、米大統領の世界的な影響力の大きさを考えると、無関心ではいられません。
アメリカの「反知性主義」の伝統と欧州にも広がっている「ポピュリズム(大衆信仰)」の潮流を目の当たりにしているように思います。


メディアはいまだに「最後は、彼が指名されることはなかろう(そこまで国民は愚かではなかろう)」「彼が候補者に選ばれたら共和党は終わりだ」等と書いていますが・・・・
彼の共和党内の支持率は、
(1)昨年6月には僅か4%で立候補者中9位、7月には7位の6%
(2)それが、8月には21%で1位に躍り出て、以来、5か月トップを維持して、12月には30% 前後と上昇中です。
いまに化けの皮がはがれると高をくくっていた人たち(プロの政治家もメディアも学者も)を当惑させています。


トランプは69歳、ニューヨークのクイーンズ区生まれ。
祖父はドイツからの移民で、父親が地元の不動産開発で財をなし、次男の彼がペンシルベニア大学の経営大学院ウォートンスクールを卒業後、父親の後を継ぎ、これを世界的な事業に拡大した。資産は5000億円とも。酒もたばこもやらず、これは跡継ぎと目されていた兄が暴君だった父親と合わず、アル中になって早死にした教訓だそうです。
離婚は2回、いまは3度目の夫人と結婚中。


1982年にマンハッタンの目抜きの場所に「トランプタワー」という初めて自分の名前を付けた58階建ての豪華な高層ビルをつくり(ちょうど私が働いているとき、NYで大きな話題でした)注目されて以来事業を世界規模で展開し、その過程で自分の会社を幾つも倒産させ、マフィアとの取引も噂に出ないではない人物。

2.タイム誌は「2015年Person of the Year」に「自由世界の首相」と呼んでメルケルさんを選び、
次点はISの指導者バグダディ、次々点が「扇動者、デマゴーグ」と呼ぶドナルド・トランプです。


以下、今回はタイム誌が彼をどう取り上げているかを紹介します。
(1) 「タフネス」(心身の強さ)が彼のブランドであり、「時に違法や違反行為を犯しても辞さない逸脱」が彼のやり口である。

後者の一例をあげれば、「全米で白人が殺された事件の犯人の8割以上が黒人だ」と発言した。これは明らかに誤りで「事実は8割が白人による殺害」である。しかしトランプは決して自分の発言を訂正しないし、謝りもしない。
入国者には宗教を問い、イスラムは禁止すべしという発言も、憲法違反が明白だが、彼は決して謝らない。
また、第二世界大戦中の日系アメリカ人を強制収容所に入れ資産を没収した行為について是非を問われて、否定しなかった。1988年当時のレーガン大統領が正式に謝罪し保障し、最高裁憲法違反と認めたにも拘わらずである。


(2) 彼のキャンペーンのモットーは「アメリカをもういちど偉大な国にしよう(Make
America Great Again)」。
そして、そのためには時に「品格を無視すること、下劣(mean)になることも必要だ」と彼は訴える。
そういうえげつない姿勢が一部の大衆の熱い支持を得ている。支持者は語る。
「誰もが言いたくても言えないことを彼は怖れずに発言する」
「言うことはきれいごとじゃない。しかし、真実は時に美しくはないんだ」
こういう支持者に支えられて、彼は、人種差別発言を繰り返し、競争相手の共和党の候補者を罵倒し、その弱みを(支持率第2位でトランプを追いかけるテキサス州上院議員テッド・クルーズの国籍問題のように、事実が明らかではなくても)攻撃する。
民主党ヒラリー・クリントンに対しては夫の不倫問題で彼女がとった態度にまで攻撃の矢を繰りだし、古傷を暴こうとする。
「物議をかもすこと」は彼にとっては活性剤なのだ。

(3) 「えげつない」と言えば、昨年11月末に彼はタイム誌の記者をオフィスに招いて同誌が選ぶ“今年の人”の話題について触れ、「候補はたった一人しか居ないと思うよ」・・・「それは、トランプだ」と言ってのけたそうである。


3. タイム誌は、かっての1950年代、「赤狩り」で社会を動揺させたマッカーシー上院議員や60年代黒人に対する攻撃的な発言と行動で知られるウォーレス元アラバマ知事などの名前をあげて、
この国に、「反知性主義」の伝統があることを振り返った上で、
「まさに我々一人一人がどう対応するか?が問われている」と結びます。


低所得・低学歴・労働者階級の白人の支持を基盤にしていると言われます。
そういう彼自身は、富裕な父を持ち、名門といわれる大学院を出ている、その対比が特徴的です。
調査によれば急速に有権者数を増やしているヒスパニックの人たちの支持を得ていない(彼はそれを否定している)そうですが、そのあたりが今後も勢いを保てるかの1つの鍵になりそうです。


多少関連しますが、昨年12月フィナンシャル・タイムズ(FT)の長文の記事は、アメリカの中産階級が空洞化している」と報告しています。
ある有力シンク・タンクの調査で、30年前には、国民全体の6割以上を占めていた「中産階級」が徐々に減り、50%になってしまった。
明らかに格差は拡大している。しかもそれはよく言われるように「1%の富裕層が残りを支配している」ということよりもむしろ、上流と下流の双方がともに増えて、中が空洞化しているのが現状である、と指摘しています。

これはおそらく日本でも当てはまるのではないか。
とすると、上流から落ちこぼれた人たちの不満が、アメリカでは、多数が共和党のトランプに向かい、1部が自らを「社会主義者」と名乗る民主党のバニー・サンダース(ヒラリー・クリントンを追って同党の支持率2位)に向かっている・・・
とすれば、日本ではこういう不満のはけ口は果たして、どこに向かうのでしょうか?