タイム誌「カリフォルニア共和国の逆襲(The California republic comes roaring back)」

1. 寒い日が続きますが、朝の散歩道、駒場民藝館の紅梅白梅が早くも咲き始めました。東京では、春は徐々に近づいています。 

前回のブログで「国境をまたいで猫はあくびする」という“平和の俳句”を紹介し、昨年12月に東京新聞に掲載と書いたのですが、これは今年1月の間違いでした。指摘を受けて訂正します。

どうも私の場合、なぜかブログの文章は活字に載せるのと違って、推敲をあまりやらないので時々ミスがそのままになります。

理由はよく分かりません。活字になる場合は、原稿を書きあげてから何度も読みかえします。


反省はしているのですが、私だけかもしれませんがネットにアップする場合は、なぜかそれほどの気を使いません。
ネット発信は文章の正確さや端正さよりもスピードを大事にする「現代のツール」だ、という意識があるからでしょうか?


ひょっとして、トランプ大統領ツイッターというのも、同じような感覚で書いているのではないかと心配になります。あまりにも頻度が高く、あまりにも思い付き発言が多いという印象を受けるのですが・・・


2. そのトランプですが、
8日(水)の午後、頼まれて世田谷の経堂で90分ほど話をしました。小人数の、私と同世代の集まりですが、それだけに一方的にならずに話が出来てよかったです。
幹事さんが早速、会員用の「要約」を以下のようにまとめてくれました。

トランプ大統領については今や少し食傷気味のため、タイム誌の「今年の人」に直近7年間に掲載された人物も加えての話となりました。
 フェイスブック創始者マイク・ザッカーバーグ(2010年)は弱冠33才、今や全世界15億人のユーザーを持ち、新しい人間関係を構築する手段として世界に大きな影響を与えています。
 オバマ前大統領(2012年)は母親が白人であるにもかかわらず、自ら黒人としてのアイデンティティを選んだことについて、人種と国籍について考察されました。

 フランシスコ教皇(2013年)は、カトリックの総本山教皇庁の伏魔殿のように肥大化した組織を改革すべく、庶民の側に立って活躍しています。我が国ではキリスト教の信者は100万人程度で、なぜ普及しなかったか、その迫害の歴史も含め、日本の特殊性を感じました。

 独首相のメルケル(2015年)は、EUにあって孤軍奮闘していますが、他の政治家がためらうような要求を国民に呼びかける勇気と、確固たるモラル・リーダーシップを発信しています。」
 

3. その「食傷気味」のトランプについてです。

(1) 8日のお喋りでも触れたのですが、今回の選挙を総括すると、
・全米の総得票で、ヒラリー65.7百万票、トランプ62.9百万票で、2.8百万、ヒラリーが上回った。
・ところが選挙人の数では、州別、かつ小さな2州を除いて「勝者総取り」のため、ヒラリー232(21州)トランプ306(30州)と大差がついた。

・つまり週ごとに偏りがあったということで、特にニューヨーク州と加州でヒラリーの対トランプ差が大きく、他方でトランプは僅差で勝った州が多い。しかし「勝者総取り」だからたとえ差が1票であっても勝った方が州の選挙人数全てを獲得する。

・例えば、ニューヨーク州ではヒラリーが1.6百万票の大差で勝って29人の選挙人を獲得。ところがフロリダ州も選挙人の数は同じだが、この29人を12万票の差でトランプが獲得。ミシガンに至ってはわずか1万1千票差でトランプが16人全てを獲得した

(2) もちろん大統領選挙の仕組みが、州が基本で州別に意思を決めるというシステムである以上、やむを得ないのですが、当然に不満も出てくる。

4. もっとも顕著なのがカリフォルニア州で、タイム誌2月13日号が「カリフォルニア共和国が吠え返す」と題する記事を載せています。

(1) 加州ではヒラリーへの投票がトランプを4.3百万票上回り、総数の61.5%を得た。結果を知って「信じられない思い」が「怒り」と「悲しみ」に変わりつつある。

(2) 全米で最も人口の多い、アメリカ人の8人に1人が住む加州は、もっともリベラルな州としても知られる。アメリカの「例外」かもしれない。民主党州知事のみならず州議会の多数を占める5州の1つ。


(3) 州人口の多様性がその理由の1つ ――2015年全米で白人は62%ヒスパニック18%に対して加州では白人38%ヒスパニック39%で後者の方が多い。
アジア系も13%、4分の1以上が外国生まれで、全米平均の倍以上。


(4)トランプ大統領就任4日後州議会でブラウン州知事は、「カリフォルニアは決して立場を変えない。今もそうだし、今後も永久にだ」と宣言した。

他方で4割弱がトランプ支持だった訳で1枚岩ではない、地方や農村では、リベラルな多数派に反発して、別の・51番目の州になろうとする動きさえある。

多数派は、むしろ「Yes California」というグループをつくって、加州そのものの独立運動を起こそうとしている・・・・・
加州の人口は4千万人に近く、GDP(国際総生産)は世界6位でフランス、英国、ドイツを抜き、規模的には十分に国の資格があります。

(5)独立も保守派の離脱による分裂も、とても現実的なシナリオとは思えませんが、住民の苛立ちは理解できます。

また主流派には、好景気に沸く高学歴の優秀なIT産業の経営者やそこに働く人たち、ハリウッドの製作者・監督・俳優などが含まれるいることも注目です。
今回のトランプのイスラム7か国入国禁止の大統領令に対して反対の声をあげた人たちでもあります。グーグルの創業者でロシア生まれの富豪セルゲイ・プリンは、空港での抗議デモに参加、その理由を問われて「僕だって移民だったんだからだ」と答えたと言います。

(6) 以上、アメリカの「分断」を象徴する動きとしてご報告しました。

4, 最後に、経堂での「お喋り」で2015年の「今年の人」がなぜメルケルか?の理由にタイム誌が「モラル・リーダーシップ」をあげたことに触れました。
トランプの就任後の言動を見ながら、あらためてこの言葉を思い出します。
1国のトップ・リーダーには、政治や統治の能力だけではなく、「モラル」もまた必要ではないか。
日本のような「象徴としてのモラル・リーダー」が存在する場合は首相の品格はさして問題にならないかもしれない。
しかし、アメリカの場合、他に誰が居るのか?ドイツもアメリかと同じく共和国だからこそ、メルケル首相の「モラル・リーダー」としての存在感は大きいだろう。対してアメリかは不幸な状況だなと感じました。