大阪なおみ選手と「ハーフ」「ダブル」の話

1. 秋らしい気配になってきました。駒場の東大の銀杏並木を歩くのも気持ちよく、週に何日かは図書館に入り、隣にあるカフェで珈琲を飲んで時間を過ごします。


そのあと渋谷まで足を延ばして、東急百貨店にある「丸善ジュンク堂」を覗きます。
最新のエコノミスト誌やタイム誌は毎週ここで内容をチェックします。

どちらも週刊誌ですが実際に購入するのは月に1回程度で、あとは面白そうな記事があれば、いずれ東大駒場の図書館で読んだり、コピーを取ったりします。


そういえば、岡村さんが、私のブログで米国の中間選挙を読んで興味を持って友人に話をしたら、奇妙な顔をされたと書いておられました。たしかに、こんな話題に関心を持つ日本人は少ないでしょうね。


2. 最新10月23日号のタイム誌の特集記事は、「2018年次世代の若者のリーダー10人(組)」
で、スポーツ、音楽、政治、社会活動、医療など様々な分野で世界的に活躍している若者を取り上げています。


その中にBTSという韓国の若者の音楽グループが選ばれており、彼らが表紙になっています。
彼らの音楽はK-POPと呼ばれ、BTSはそのスーパースターで、10月にはニューヨークで開催された国連総会でスピーチをしたという記事にに驚きました(The seven-piece boyband have become one of the biggest musical acts in the world and last month gave a historic speech to the United Nations in New York)。
タイム誌が「次世代のリーダー」に選んだのも当然かもしれません。私は初めて聞く名前でした。過去世代の老人には縁遠い世界です。


もっと驚いたのは、渋谷の本屋で売っている雑誌の前に「大人気につき、おひとりさま、1冊とさせて頂きます」という紙が貼ってありました。
英語の雑誌タイム誌がこれだけ売れるというのはちょっと記憶にありませんが、これを契機に若者が英語の記事を読んでみようと思ったとしたら、結構なことではないかなと思いました。

3. 10人はすべて私は知らない名前です。
スポーツからは、キリアン・エンバぺというフランス代表のサッカー選手で、先般のワールドカップ優勝に貢献したそうです。パリ生まれだが、父親はカメルーン、母親はアルジェリア出身とのこと。
スポーツの世界からなら、大坂なおみ選手も候補の一人にはなったかもしれないと思って、少し前に東大図書館で読んだ10月8日の記事を思い出しました。


4.モトコ・リッチさんというニューヨーク・タイムズ東京支局長の
「大阪なおみ、新しい知事、そして私」と題する記事は、以下のような内容です。


(1) 私は日本人の母アメリカ人の父を持つが、40年前、アメリカから東京の郊外に越してきたときには、道を歩いていても学校の同級生からも「ガイジン」と指さされたものだった。
2年後にアメリカに戻り、小学校の4年生に編入したときには、同級生から「アジア人」と言われ、目を吊り上げる仕種をしてからかわれた。母が用意してくれたおにぎりのランチの匂いに鼻をつまむ子もいた。


(2)いま、外国紙の特派員として日本に赴任して、さすがに指をさされるようなことはなくなった。しかし、依然として外国人として扱われている。名刺を交換すると私の顔を見つめて「どうしてモトコなんて日本的な名前がついたのですか?」と訊く人もいる。


(3) 赴任してすぐに、全米選手権で優勝したテニスの大坂なおみ選手や、新しい沖縄の知事について取材する機会があった。
二人とも母親は日本人だが、父親は前者はハイチ生まれのアメリカ人、後者は白人のもとアメリ海兵隊員である。
そして取材しながら、「混血(mixed heritage)」の人たちを日本人は徐々に受け入れてきているのだろうかと考える。
過去20年で、日本で生まれた50人の1人は、彼らのような、両親のどちらかが外国人である。

沖縄知事選挙のときには、「彼は純粋の日本人ではない」と遠回しに言うメディアもあった。
大坂選手がニューヨークで優勝したとき、「あなたは自分のアイデンティティについてどう考えますか?」という無神経な質問をした日本人記者もいた。彼女は「私は、ただの私よ」と最高の答えで応じてくれた。
また、彼女の謙虚な態度が日本人らしいと言われ、褒められ、それが人気の理由の1つにもなっているようだ。


彼女の無邪気で余裕のある態度をみていると、私の気持ちも少し楽になってくる。私自身は若いころ、自分の日本語が不十分なことに悩み、恥じていた。しかし大坂選手の日本語だって私と変わらないと知って。


(4)しかし、仕事の上では純粋な日本人とみられないことで得をすることもある。とくに日本のような男性優位の社会では、女性かどうかより外国人が先に考慮されるのは助かるともいえる。

(5)アメリカ人は得てして、いろんな種類の人間が済む社会を当たり前と考えがちだ。しかし、本能的に人を自国人か外国人かで選別する社会もあるということは知っておいた方がいい。   

(6)赴任してすぐ、2人の娘をもつアメリカ女性と食事をする機会があった。夫は日本人であり、「“ハーフ(半分(Half)からくる和製英語)”と言われて育つことをどう思うか?」と彼女に訊いたところ、「言葉の使い方の問題もあると思う」と答えてくれた。
「半分しかないと考えるか、両方あると思うかの違いじゃない。私は子供達には「ハーフじゃなくて“ダブル(二倍・二重(Double))”って呼んでいるの」。
何だかほっとする気持ちになった・・・・


4. 「いろんな人が住んでいるのが当たり前の社会」について考えました。


そういえば、「2018年次世代の若者のリーダー10人」の1人であるサッカーのキリアン・エンバぺ(Kylian Mbappe)選手はカメルーン人の父とアルジェリア人の母をもち、こういう人も“ハーフ”というのでしょうか?
しかも彼はパリで生まれたフランス人です。
タイムに載った彼の写真を見て、私はすぐにフランス人だとは思わず、自分にある無意識の先入観にあらためて気づきました。こういう人は“トリプル”と呼んでもいいでしょうね。