タイム誌2018年「今年の人(Person of the Year)」は?

1. このブログ、いつまで続くかわかりませんが、今年もよろしくお願いいたします。

東京はよく晴れた、気持ちのよい元旦でした。朝早くから、ほとんど人の姿をみない東大の研究所とキャンパスを歩きました。
夕方から、子供や孫たちが現れ、賑やかでした。いつも、前年話題になったサブカルチャーについて彼らから教えてもらいます。2018年について我が家の若者が言うことは、


(1) 音楽とダンスでは「DAPUMP」というグループの「USA」という曲。   https://sarukozi.com/2018/07/30/dapumpusa/#USA

彼らのダンスが「ダサかっこいい」と評判になっている、
歌詞にある「どっちかの夜は昼間」という言葉も話題。
(2) 笑いでは、「和牛」と「霜降り明星」という2つの漫才師たち。
(3) 映画では「ボヘミアン・ラプソディ」「カメラを止めるな」そして「万引き家族」、
だそうです。
テレビで紅白を見ている人は、とっくにご存知かもしれません。
私たち夫婦は毎年紅白は敬遠しているので、映画の名前を聞いたことがあるぐらいで、あとは名前も何も知りませんでした。

もっとも、こういう話題がいつまで続くのでしょうか?
2017年1月に若い世代から聞いたのは「恋ダンス」と「ピコ太郎」でした。この2つ、いまはどうなっているでしょうか?


2. 以上は前置きで、今回取り上げるのは恒例のタイム誌「2018年Person of the Year(今年の人)」の報告です。
昨年の2018年は、「(民主主義を)守る人たちと真実の闘い(The Guardians & the war of truth)」と名付けて、複数のジャーナリストを選びました。
具体的には、

(1) トルコのサウジ・アラビア総領事館で殺害された、ジャマル・カショギ氏
(2) ミャンマー少数民族ロヒンギャの虐殺を報道したとして7年の有罪判決を受けた、ロイター通信所属のミャンマー人2人
(3) オンラインのニュースサイトを立ち上げ、脅迫をも恐れず、フィリピンのドゥテルテ政権の弾圧や違法な殺害を告発し続ける女性マリア・レッサ
そして、
(4) アメリカのメリーランド州アナポリスにある歴史の古い地方紙「キャピタル・ガゼット」。同紙は自身のセクハラ・ストーカー報道に不満をもつ男に襲撃され、記者ら5人が殺害された。
の3人と1団体を選びました。


3. 以下は、同誌編集長による、選出の理由付けです。
(1)いま世界は、巨大な、グローバルな問題を抱えており、力を合わせてその解決に当るためには、基本的な「事実」を共有することが重要である。
だからこそタイム誌は、真実を見つけ・伝えることに命を捧げる人たちを「2018年今年の人」に選んだ。

(2)「今年の選択は、国際政治における不吉な動きを象徴しているかもしれない。
しかし、同時にまた、普通の人たち(ordinary people)が偉大な何かのために立ち上がることができるという事実を教えてくれるのだ」・・・・・

(3)ミャンマー最大の都市ヤンゴンで32歳と28歳のロイター通信の記者が一年以上牢につながれている。イスラム少数民族への弾圧・虐殺を報道した2人は、国家機密を入手したという疑わしい罪状で起訴され、一審で7年の刑を宣告された。
これは、自由にとって生命である情報の流れと論争(debate)を規制しようとする、独裁・専制国家による顕著な動きである。

(4)世界の民主主義はここ何十年で最大の危機に面している。真実を欺き、操る行為は今年の報道でも最大の話題であり、自由に対する恐るべき脅威となりつつある。
2018年、ハンガリーで、インドで、ロシアで、アメリカで、メキシコ・・・などで、昔ながらの情報源への妨害や抑圧が数を増した。


2018年12月10日現在、少なくとも52人のジャーナリストが真実を報道する戦いで命を落とした。2017年には262名が牢屋につながれ、今年はこの記録的な数字を上回るだろう。
彼ら、3人と1団体は、これら全てのジャーナリストの代表として選ばれた。


(5) 因みに、「サウジ・アラビアのムハンマド皇太子が進める国内改革などに批判的な記事を書いていた」カショギ氏について言えば、タイム誌が、すでに死去した人物を「今年の人」に選ぶのは92年の歴史で初めてである。



報道の自由への抑圧は、サウジやフィリピンやミャンマーのように、権力者からなされるだけとは限らない。
アメリカの「キャピタル・ガゼット紙」を攻撃したのは、真実への報道に怒った普通の人間によってなされた。
アメリカのテレビ放送局CNNは、爆弾を仕掛けたという脅しを受けて、2回にわたりオフィスから避難する事態が起きた。


(6)メディアは時には判断の過ちを犯し、正確さを欠くこともある。
しかし、にも拘わらず、彼らの存在は民主主義の基盤である。

・命を賭けても、より価値のある真実を追い求める勇気のゆえに、
・市民が自由に話し合うためには、事実を追求することが不可欠であるがゆえに、
・自由に自らの思うことを言い(speak up)、勇気をもって発言する(speak out)ことの大切さゆえに、
―「(民主主義を)守る人たち、すなわち”ザ・ガーディアンズ”」が「2018年、今年の人」である。


4.タイム誌は、2017年には、アメリカで始まり、世界に広がった「セクハラ」告発の動きに立ち上った61人を「沈黙を破った人たち(The Silence Breakers)」と呼んで選出しました。
2015年はドイツのメルケル首相、16年はトランプ大統領でした。
その後、タイム誌は2年続けて、世界のリーダーでも権力者でもない、「普通の・複数の人たち」を「今年の人」に選出したことになります。


2017年に「沈黙を破った人たち」を選ぶにあたって、タイム誌は以下のように説明しました。18年との連続性を感じる文章だと感じます。

(1) タイム誌はいままで「偉大な人間が歴史を作る」という考えに沿って選んできた。
しかし、今年は違う。「今年は、世界は「草の根」からだって変えられるということを思い起こす重要な第一歩の年になるのではないか」。

(2)~~~~
・そして、私たちすべてを、「受け入れ難いことは決して受け入れてはならない」という確信に導いてくれたがゆえに、
「Silence Breakers」が「2017年の、今年の人」である。

(3)運動は始まったばかりであり、これからどうなるか、不透明な面もある。反動や揺り戻しもあるかもしれない。
未来は、真実を語ること自体が脅かされるという現実をどこまで変えられるか?にかかっている。