いつも長いコメントを頂く岡村氏に敬意を表して

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  1. 前々回、東京の赤坂でお会いした京都人について書きました(3月末でしたが、良いタイミングで来られたと思います)。

 その中の一人、岡村さんを今回紹介したいと思います。ご本人の事前了解は得ていませんが、フェイスブックへのコメントからの紹介なので、お許しいただけるでしょう。

 いつも長文で面白いので、ご自身でブログか活字にしたら如何かとお薦めするのですが、そういうことには関心がないようです。

 自分からは発信しない。これもまた人間の矜持の一つかもしれません。

 

  1. 同氏は、祇園置屋の家に生まれ、若くして両親を亡くし、大学卒後長くひとりで海外を放浪し、帰国してからその経験を生かして旅行会社に勤務したと聞いています。祇園育ちのせいもあるのか女性に優しく、人気があって京都女性会の旅行の世話役を長く務めました。いまは祇園の町内会の会長をこれまた長くやっておられます。

 長野県茅野市出身の奥様を先年亡くされ、いまは猫と二人暮らし。私も茅野には縁があるので、亡くなられたときに小学校の恩師がはるばるお悔やみに上洛されたという話を聞いて心に残っています。信州人にはそういう義理堅い人が多いようです。

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  1. しかも東京についても私よりはるかに詳しく、今回の上京でも神田神保町の古い喫茶店「ラドリオ」に寄ったとか(昨年夏はたしか、これまた有名な「さぼうる」でした)、常磐新平愛用の寿司屋で食事したとか、帰洛のお土産には、「銀座たちばなのかりんとう」、新橋小川軒の「レーズンウィッチ」そして三越地下で「ジョアンのパン」を買ったとか、私のほとんど知らない名前が出てきます。

私の場合は東京の土産も喫茶店もあまり知りませんが、岡村さんの広い知識・行動力には感心します。

 

4.それでいて、祇園の知識・人脈や動静などに詳しいのは当然です。

 モルガンお雪の話を聞いた報告のなかで、「いま、礼儀作法がきちんと躾けられているのは花街ぐらいではないか」と書きました。

 早速、コメントを頂き、ある年上の元芸妓さんがいまの芸舞妓の礼儀の無さを嘆いていて、「私たちの頃は電信柱にもおじぎしたもんえ!」と言っていたとあり、思わず笑ってしまいました。

「とはいえ、訪れるお茶屋の女将は玄関先に出てこられると、膝を折って話される」とも書いておられ、いまもきちんとした作法が残っているでしょう。

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5.本もよく読んでおられて、アメリカの黒人問題を扱った本やアフリカの旅行記など幾つか教えて頂きました。

 逆に私が簡単な読後感を載せたカズオ・イシグロの最新作『クララとお日さま』も、上京時に「ラドリオ」で面白く読んだとありました。自分が面白いと思った本を同じように読んでもらえるのは嬉しいものです。

 本書はクララという、人間の友達になるために作られた知能の高いロボットが語り手の物語です。岡村さんはこう書きます。

――「AIロボットがショウウインドウ越しから眺めて、選んでくれる子供を待っている。その光景は日本のペットショップで見る仔犬や仔猫を想像します。

 イギリスでは仔犬等を店頭で売ることはない筈です。・・・捨てられた犬、それを保護する人もいます。その噂を聞いて捨てに来る人もいます。犬たちは捨てに来る人の車の音を聞きつけると迎えに来てくれたと思って外に飛び出すそうです・・・」  

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  1. 岡村さんの読み、すなわち,

・14歳の少女の親友ロボットになるために買われるクララと、ペットショップにいる仔犬とを結びつける。

・そして、クララを売ったお店の店長さんが、捨てられたクララを探して「置き場(yard)」にやってくる本書の最後の場面と、飼い主にいずれ飽きられて保護施設に引き取られる仔犬の運命とを結び付ける。

――こういう発想が私にはなかったので、この岡村さんの読みは新鮮で、想像力の拡がりに感心しました。想像力を持って読む、これが小説の最大の楽しみですね。

 イシグロはそのあたりを実に繊細に書いています。だから鈍感な私は気づかなかったのかもしれませんし、彼の「抑制された、哀切な」文章があらためて心に残ります。

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7.そういえば、先週の国際ニュースの「ニューヨーク情報」で、コロナ禍でペットを飼う人が急増していると伝えていました。

 アメリカでペットショップで売るのは、保護施設から引き取った犬猫が原則だが、不幸な目に遭っている事例も多いので、躾けが必要な場合も少なくない。従ってトレーナーが新しい飼い主に指導する必要があるそうで、そういう事例を報道していました。

 岡村んは、こうも書いておられます。

「イギリスのブリーダーは、一時期日本には仔犬を譲らないことがありました。環境をチェックしたり、飼い主も選んだそうです。店長さんが、最後までクララを気にかけていた気持はそういうことだろうなと思いました・・・」。