アンドリュー・ヤンとベーシック・インカム、『ベーシック、命をつなぐ物語』(廣田尚久)

1. 新型コロナウィルス問題、早く収束してほしいですね。

 私も家にいる時間が多くなりました。近くの散歩は続けており、梅やまんさくが咲く、立派なお宅の庭を眺めたりしています。

 世界大で感染者が増えていて、経済も先行き懸念が広がっています。2月27日のCNNは、第二四半期(4~6月)にアメリカ経済の景気後退が起きるようならトランプ再選に黄信号がともる、とのゴールドマンサックス見解を紹介していました。

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2. 前回のブログは2月22日の民主党ネバダ州党員集会に触れました。(今週末は黒

人票が多いサウスキャロライナ、3月3日には大票田の加州やテキサスなどで予備選が実施され、ここまでで約4割の代議員が決まります)。

 民主党にとって、中道派の候補者が混戦で絞込みができない現状は戦略上問題がある。

 しかし(1)活発でオープンな話合いと(2)多様な政治家の出現には活力を感じる、とも書きました。

 (1)については、2月25日の東京新聞が「目前にある民主主義」として、2日のアイ

オワ州での党員集会を取材した記事を載せています。

―「党員は州内約1700か所の会場に集まり、公開で議論しながら支持する候補を決める。・・・誰がどの候補を支援しているか丸見え。時間も手間もかかるが、話合いで決める民主主義の素晴らしさを感じた」と書いています。

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 (2)については「多様な」候補者の1人として、アンドリュー・ヤンを紹介しました。

 彼は台湾からの移民の息子で、「東アジア系アメリカ人初の大統領候補として注目された」と言われます。

 弁護士、起業家、慈善事業家であり、オバマ政権時「雇用創出」に貢献したとして表彰された。政治経験ゼロにも拘わらず立候補し、「ソーシャル・メディアを最も活用した候補者」とも言われ、予想以上の支持を得て一定の存在感を示しました。。

 2月20日に撤退を表明したが、その前日にCNNの「政治コメンテーター」に就任し、早くもTVに登場して、コメントしていました。

 アンドリュー・ヤンの政策は民主党の「中道派」に属します。しかしいちばん注目されたのは、公約に「ユニバーサル・ベーシック・インカム」を掲げたことです。

3.ベーシック・インカム(BI)は「生活に最低限必要な所得を国民全員に保障する制

度」です。

 BIの必要性を説く井上智洋駒沢大准教授は、以下のように述べています。

(2017年8月8日日経・経済教室「AIは何をもたらすか」から)――

 (1)(例えば)日本で毎月7万円を国民全員に給付するには、それにより不要となる生

活保護や失業手当などの社会保障費を削減し、所得税率も引き上げる。

 しかしこれは平均的な国民にとってはほとんど負担にならない。おおざっぱに言うと、中間所得層では差し引きはおよそゼロ。貧困層では給付額の方が多く、富裕層では増税額の方が多くなる。

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 (2) したがってBIは、他の一般的な社会保障制度と同様に、富裕層から貧困層への所得の再分配をもたらす。

 財源は常識的に考えれば増税以外にない。結局のところ、BIを導入できるか否かは、富裕層が増税に応じるかどうかにかかっている。

(3) BIは労働に対するインセンティブが失われにくいという点で、生活保護や失業保険よりも優れている。

 しかも、AIによる純粋機械化経済が実現したあとでは、この制度は必要不可欠なものになる。多くの労働者がBIなしに生活を維持できなくなるからだ。

 こう主張しても、富裕層の増税に対する理解は得られないかもしれない。それでもAIが高度に発達した未来に大規模な再分配がなされなければ、富裕層の所得も減少するということならば、ある程度納得せざるを得ないだろう。―――

f:id:ksen:20200301074636j:plain4.アンドリュー・ヤンについては、「彼は「ヤン・ギャング」と呼ばれる熱心なファン

を獲得し、民主党共和党の両派から理想主義に燃える、現状の政治に満足できない支持者を集めた」と言われます。

 その目玉となる彼の公約が、「「自由の配当(The Freedom Dividend)」と呼ぶ、18歳以上の全ての米国民に月額1000ドルを支給する「ユニバーサル・ベーシック・インカム」の実現を目指す」というものでした。

 BIを公約に掲げるアメリカ大統領選の候補者は初めてではないでしょうか。

(5)日本の政治家でもまだいないのではないかと思いますが、

実は今回この問題を取り上げたのは、海の向こうの話だけでなく、私の友人が小説を書いてその中で扱っているのです。

 廣田尚久という、中学・高校・大学が一緒の友人です。本職は弁護士で、民事の「和解」が専門で専門書も書いていますが、その傍ら小説を出版しています。

 昨年春に出した『2038,滅びに至る門』は以前ブログでも紹介しました。

https://ksen.hatenablog.com/entry/2019/11/03/081913

 舞台は2038年、AIが生み出した指導者の指令によって核戦争が起きるという、ディストピアの世界を描いた作品で、西垣通東大名誉教授が長文の書評を毎日新聞に載せまました。

(6)廣田氏はまことに精力的で、昨年末にもう1冊小説を、同じく河出書房新社から出

版しました。

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『ベーシック、命をつなぐ物語』という題名で、ベーシック・インカム(BI)を取り上げています。硬いテーマを物語の中に取り込む意欲作で、なかなか面白く読みました。

(1) 舞台はやはり今から約20年後の未来。AIのために職を失い、「棄民」の状態に置か

れた人々が「新しい共同体」を作り、彼らがBIを政治公約にして選挙を戦うという戦略を政治家に働きかける。

(2) 最大野党の進歩党が興味を示して、選挙の公約に掲げる。

ちょうど金融市場の崩壊が起きて、政治経済は大混乱し、進歩党の支持率も上向き、BIへの国民の理解も進み、世論調査で78%が導入に賛成する。。

 これを見た与党保守党が何と公約を横取りし、同じくBI導入を約束する。

(3) 総選挙の結果は投票率71%、総議席435のうち進歩党は201議席を獲得し、保

守党226には及ばないものの善戦する。

 進歩党党首は、「与党のBI政策はうまくいかない。いずれ自分たちの出番がくる。野にあるうちにBIの制度設計を練り直し、そのときこそBIを武器に世直しをする」と語り、「新しい共同体」のメンバーは「種は地に播かれた」と未来に希望を抱くところで、物語は終わります。

7.アメリカの選挙で初めて一定の注目を浴びたBIが、これから日本でも政治の局面で注目されることがあるでしょうか?興味を持っています。

 例えば山本太郎あたり、勉強家のようですから、勉強し検討してみたらどうでしょうか?少なくとも廣田氏のこの本を読んでほしいものです。