頂いた『キリスト教美術史』(滝口美香、中公新書)を読む

  1. 中公新書の9月刊行、『キリスト教美術史、東方正教会カトリックの二大潮流』

(滝口美香著)を読み終えたところです。貴重な読書体験でした。

まずは、帯にある本書の説明文を紹介します。

ローマ帝国下、信仰表示や葬礼を目的としたキリスト教美術が成立。

やがて4世紀にローマ帝国が東西に分割されたことによって、二大潮流が形成される。一方は、1000年にわたり不変の様式美を誇ったビザンティン美術、もう一方は、(略)変革を続けたローマン・カトリック美術である。

本書は、絢爛たるキリスト教美術の歴史を一望。100点以上の図版をフルカラーで解説する」

 

2.贈って頂いたのは、著者の母上、滝口俊子先生です。宇治市京都文教大学でご一緒しました。放送大学名誉教授。臨床心理学が専門で、河合隼雄の愛弟子です。

 お嬢様もやはり学者ですが、専門はまるで違います。ロンドン大学コート―ルド研究所で博士を取得し、明治大学准教授、専攻はビザンティン美術史です。

 博士論文を主に、豪華な2冊の書物にまとめて2012年&18年に出版、これらも頂戴しました。

 今回は新書ですから、多くの人が手軽に眺めて楽しんでくれたらよいなと思います。

3.以下は、ささやかな感想です。

(1) 本書には、100点以上のカラーの図版があります。

そして最近はインターネットでも検索できるので、さらに大きいサイズで見られます。お陰で、「図像」についての著者の説明を、取り込んだPCから細部にわたって確認することが出来ます。

時間はかかりますが楽しかったです。

インターネット時代の読書の新たな楽しみです。

(2) キリスト教美術といっても、ビザンティンとカトリックの違いに加えて、時代や地域によって異なることを認識しました。

カトリック教会の美術は、時代の変遷とともに大きく変化していきます。

一方正教会の美術に、そのような大きな変化は見られません」

著者のこの指摘は示唆的です。

なぜそのような人間の精神構造の違いが生れたのか、興味深いです。

ビザンティン文化の保守性は、いまのロシアという国のあり方にも繋がっているのかもしれないなどと考えました。

(3) キリスト教美術と教会などの建築との深いつながりについても認識を新たにしました。

その点で、「第六章ゴシック美術」はとくに面白く、中でもシャルトル大聖堂のステンド・グラスの説明は興味深かったです。

 

(4) 昔、NYやロンドン勤務の折、欧州大陸を含めて美術館、教会にも入り、キリスト教美術に接する機会はそれなりにありましたが、全く不勉強で、ただぼんやり眺めていただけでした。

 例えば、イタリアルネサンス期の画家による「キリストの洗礼」(下の写真)はナショナル・ギャラリー所蔵とあります。ロンドンにあるこの美術館には何度も通いましたが、何も覚えていません。

(5) 本書は、この絵が、「キリストの洗礼」という同じ題材を描いたビザンティンの絵とどこが違うかを教えてくれます。同時に、絵の背景となるキリスト教や聖書について学ぶ機会にもなります。

 

(6)若かったら、もう一度この本を片手に旅をしたいものですが、年寄りには叶わぬ夢です。

せめて、これからも折に触れて本書を眺め、その度に若かった頃を懐かしく思い出すことになるでしょう。

 

  1. それにしても著者は、どのような経緯でこういう研究に入られたのでしょう。

美術への興味からか、それともキリスト教自体への関心からか、

或いはその両方か。

きっと、研究者としてのご両親の存在も大きかったことでしょう。